お話にならないザコ。

お話にならないザコ。


「さあ……行こうか」


 そうつぶやいて、

 ゴミスは、グンと足に力を込めた。

 豪速のダッシュで距離をつめると、

 オーラを込めた右の拳でアモンの顔面めがけてストレートをぶちこもうとした。


 先ほどとは違い、気合の入った一発!

 ――それを、アモンは、


「なに、その直線的すぎる一手……バカじゃないの?」


 心底バカにした口調でそう言って、

 ゴミスの右ストレートを左手の甲ではじきながら、

 円運動に身をまかせつつ、ゴミスの懐にみ込むと、


「はっ!!」


 流れるように、ゴミスの腹部へ、爆速の肘をぶちこんだ。


「がっはぁああああああああああっっっっ!!」


 吐血の噴水。

 全身に激痛。


 ゴミスの視界が、黒に汚れた赤に染まる。


 アモンは、いまだ止まらない円運動の中で、

 厳かに武を整えながら、


「動きが硬い……お前、強者との戦闘経験がほとんどないだろ。わかるんだよ、僕くらいになると」


 上から言葉を降らす。

 とても十歳の発言とは思えない、器のある言葉。


 そんな言葉など、

 今のゴミスの耳には当然届いていない。


「ぐふ……かはっ……おえっ……うぐぅ……」


 ただただ苦悶の表情を浮かべ、

 必死に、回復スキルで、腹部の回復にいそしんでいる。


 ゴミスの『基本ビルド(先天的資質)』は、きわめて純粋な前衛特攻型で、魔法が得意なわけではない。

 よって、高次の回復魔法は使えない。

 だから、今やっているのも、自己治癒能力を魔力やオーラでブーストさせる程度。

 仮に、腕を切断などされた場合、再生させる手段は持ち合わせていない。


 『その程度の相手』は『アモンの視点』で言えば、お話にならない。

 だから、当然、アモンの口から出る評定は、


「本音言っていい? お前、弱すぎ」


 呆れが混じった落第点となる。

 『圧倒的強者の特権である優越感』よりも『ザコの相手をしなければいけないダルさ』の方が勝っていると思われる明瞭な表情とタメ息。


「これじゃ、サンドバッグとかわらない。『お前を倒しました』って易い功績だけじゃあ、当然、上になんて上がれない。……あーあ、やる気、さがったぁ……」


 ガキらしく、コロコロと表情をかえながら、

 好き勝手なことをほざくアモン。


 アモンは、ゼノリカというケタ違いの高次ステージで、必死に研鑽を積んできた超越者だが、しょせんは、まだまだ10歳のガキ。

 同年代と比べれば、間違いなく、群を抜いて大人びてはいるが、ガキであるという事実に変わりはない。


 ゆえに、その生意気さは、ナチュラルに、大人の癪に障る。

 アモンの事をどう認識しているかは関係なく、

 脳の深部にピリっとした電気が走る。


 ようするには、

 アモンの言動に対し、

 ゴミスは、心底イラついてきて、


「な……ナメんじゃねぇぞ! くそがぁああ!!」


 今度は、ブッパをかますのではなく、慎重にアモンとの距離を詰めて、

 小技の削りや、発生の早い技での牽制を挟んで、

 丁寧に殺し合いをメイクしていこうとするが、


 アモンは、きわめて正確に、ゴミスの一手を処理していく。


「ナメずにお前と戦うのは……難しいなぁ。なんせ、ナメちゃいけない理由がないからさぁ」


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