家族には甘いセン。

家族には甘いセン。


「じゃあ、こうしようぜ。ここから俺は、『手抜かりなく手を抜いて戦う』から、そんな俺に『かすり傷の一つ』でもつけられたら、お前の勝ち。お前が勝ったら『お前のいう事』を黙って聞いてやる。ただし、『何をしても俺には勝てない』と諦めたら、お前の負け。黙って俺のいう事を聞け」


 徹底した譲歩。

 『己(センエース)』に対しては絶対に『妥協』を許さないくせに、家族にはとことん甘い神の王。


「ここまで譲歩したんだ。それで負けたら、二度とゴチャゴチャいうな。これは命令だ。もし逆らったらお前は破門だ」


「……了解しました……」


 そう言って、

 平熱マンは、

 精神を統一する。



「ボクは、あなた様から『すべて』をもらった……大事なもの、失いたくないもの、誇りも覚悟も、すべて……」



 心が一つになっていく。

 平熱マンが整っていく。


「……あなた様の尊き背中を追いかけてきた……あなた様の指導を受けてきた……あなた様の弟子として恥ずかしくない存在であるために……ボクはずっと積んできた……」


 ブツブツと、

 自分自身に、


「そんなボクが、盾にもなれないなんてありえない……もう、ボクは、守られているだけの赤ん坊じゃない!!」


 地面を蹴って、

 空間に食い込んでいく。


 速さの向こう側で、

 平熱マンは強く輝く。


 『積み上げてきた全て』で、

 センの背中に『その手』を届かせようとする。


 届くはずがない。

 師は遠すぎる。


 そんなことは知っている。

 だが、

 知っているから、なんだというのだ?


 ――まさか、だから、あきらめる?

 無理だと嘆いて目をそむける?


 ははっ。


 ……ありえない。



「平熱マン・スラッシュ!!!」



 磨き抜かれた斬撃を、

 偉大なる神はサラリと流して、



「いいぞ、平。今の一撃は良かった。その感覚を忘れるな」



 平熱マンが『全てを賭した全力』で挑んでも、

 師のスタンスは変わらない。


 何一つかわらず、

 遥かなる高みから、

 『ヒョイヒョイ』と、軽やかに、平熱マンの攻撃をいなすだけ。


 だからと言ってあきらめたりしない。

 心は常に熱いままで、

 だから、

 叫ぶことができる!


「つきつめる! スピードを! 限界の向こうへぇえええ!」


 キュッと、踏み込み足が加速した。


 剣を握る手の力を少し緩める。

 脱力。

 『力(りき)み』を殺して、丹田に溜める。


「平熱マン・スラ――」


「その愚直さ……嫌いじゃないが、戦術的には間違いなく間違いだ」


 圧縮された時間の中で、

 平熱マンは、師の言葉に触れた。


 ――平熱マン・スラッシュは、非常に汎用性の高い剣技。

 ほぼすべての時間を賭して磨き上げてきた、平熱マンの生命線。

 ※ もちろん、平熱マン・スラッシュしか使えないわけではないが、

   平のビルドは、その一撃の威力を高めるためのシナジーであふれている。


 シンプルであること。

 それを突き詰めた先にしかない答え。


 そんな『一手の極み』・『一撃必殺の真髄』を求め続け、

 『今日という日』に辿り着いた修羅――平熱マン。


 そんな彼に、

 センは言う。



「その愚直さが通用するのは、お前よりも『少し強い者』までだ。俺には届かない」

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