ついに、扉の向こうへ。

ついに、扉の向こうへ。


 センエースが瞬間移動した先は、当然『禁域』。


 ワクワクしながら、例の『でかい扉』の前に立つと、


「まあ……『飛び級は認めません』とか言われてガッカリするだけの可能性も大いにあるが……モノは試しだ。最悪、ダメなら、三次を受ければいいだけの話」



 などとブツブツ言いながら、『冒険の書』を扉に入れようとしたところで、


「え、マジで、今から行くんでちゅか?」


 シューリにそう言われ、


「さんざん待たされたんだから、そりゃ、すぐに行くだろ。もう、なんていうか、こちとら、体感的には、一年くらい待たされた気分なんだよ」


「……あいかわらず、我慢の利かない子でちゅねぇ。いつもいつも『気分と勢いだけ』で行動しようとして……悪いクセでちゅ。その扉を開けた瞬間に『ものすごい敵』が出てくる可能性もゼロではないんでちゅから、しっかりと準備をしてからにしなちゃい」


「うっせぇ、ババァ。俺は俺のやりたいようにやる! 誰の指図も受けない!」


「誰がババァでちゅか! 『世界一の女神様、お慕い申しております』と言い直しなちゃい! そして、ここにひざまずき、足をなめなちゃい!」


「調子にのんなぁ!」


 いったん一喝してから、

 スゥと息を吸って、


「準備っつったって、別にやることなんかねぇだろ。手持ちのアイテムは既に最強の布陣だし……今の俺ですらヤバくなりそうな相手だったら、俺以外、全員瞬殺だから、近衛を連れていくってわけにもいかんし。そもそも、ぞろぞろと護衛を引き連れて歩くとか、俺の性格的にムリ寄りのムリだし」


 そこで、

 ワガママな神に、

 シューリが切り込む。


「お兄……まだ『P型センキー戦で得た力のコントロール』がうまくできていないでちゅよね」


「……ぅ」


「あの『蝉なんとか』っていうカスの前では『余裕の楽勝』みたいな顔してまちたけど、実際のところは、まだ地に足がついていちぇんよね」


「うぐぐ」


 『いきなり手に入れた力』を完璧に扱えるほど、

 センエースは天才ではない。


 というより、センエースは凡才。

 積み重ねることでしか力を得ることができない、

 『天才の対義語』ともいうべきスーパー凡夫。


「せめて、それをマスターしてからにしなちゃい」


「……む~」


 不満げな顔を隠しもしないセン。

 センは、数秒悩んでから、


「じゃあ、チラっとだけ覗こう? 『何があるかなぁ』って見るだけ。それだけ。ちょっとだけ! ちょっとだけだから! これからはシューリの言う事聞くから! 勉強もするし、部屋も片付けるから!」


「……ぅ……しょうがないでちゅねぇ……ちょっとだけでちゅよ」


 あっさりと折れたシューリの背中に、

 アダムが、


「はやっ……おい、折れるのがはやすぎるぞ、シューリ。なんだかんだ、貴様は主上様に甘すぎだ」


「だって、なんでも言うことを聞くと言っているんでちゅよ! それは、つまり、これからは、お兄は、オイちゃん専用の肉バイブになったということ――」


「なわけねぇだろ!」


 即座に文句をつけるセン。


 それから、数分、

 あーだこーだあってから、


「……ま、とりあえず、ヤバそうだったら退却して準備を整えるということで……」


 結局のところ『いったん、扉の向こうを覗いてみよう』ということに落ち着いた。


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