あっぱれ、褒めてつかわす。

あっぱれ、褒めてつかわす。


「ちょっと小突いただけ。褒められるようなことじゃ……ってか、お前、何、上から言ってんだ。お前に褒められたって、ちっともうれしくねぇよ」





「そうか。なら、これではどうだ?」




 そう言って、

 少しだけ、

 ――ほんの少しだけ、

 ――シーバンにだけ届くよう、ほんのわずかに、


 いと高き神気を開放した。



 その瞬間、



「っっ??!! ――がぁ……っ……!!」



 シーバンの脳髄に、ズガンと衝撃が走った。

 目の前で膨れ上がった『何か』に対し、

 魂が震えあがり、

 心が『いつもの居場所』を見失った。



「ぁ、ぁ……」



 光だった。

 とても、とても、大きな光。

 まるで、すべてを包み込むような、

 そんな、とてつもなく尊き輝き。


 ――光の主は、穏やかな口調で、




「お前の想い、お前の覚悟……そして、お前が積み重ねてきた強さ……しかと、この目で見届けたぞ。あっぱれ。褒めてつかわす」




 ただの言葉のはずなのに、

 一語一句が、脳の深い部分に触れてくる。


「ぁ……ぅ……ぅうう……」


 言葉をつむげない。

 ただ、圧倒される。

 その大きさに、

 その尊さに、


「センBの調整に付き合ってくれた褒美に、冒険の書はくれてやる。『アレ』は俺がつくったパチモンだが『あのふざけた扉』以外に見抜けるやつはいない。売れば相応の金になるだろう」


 渡す前にすり替えておいた。

 扉のカギとしてはまったく機能しないゴミ。


 しかし、その冒険の書は、センエースの手によってつくられた、この世にただ一つだけの究極超神器。

 付加価値を考えれば、

 『本物の冒険の書』なんかよりも、はるかに価値の高い至宝。


 『その事』が、シーバンには理解できた。

 シーバンほどの知性がなくとも、この光に触れた者であれば、誰だって理解できる。


 だから、シーバンは、

 慌てて、アイテムボックスに手をつっこみ、

 センから与えられた『冒険の書』を取り出して、

 すがりつくように、しっかりと、強く、強く、胸に抱いた。


 かき抱かずにはいられなかった。

 無機質な素材のはずなのに、

 神々しい暖かさを感じた。


 そしてシーバンは、反射的に、子を守るトラよりも獰猛な目で、周囲をにらみつける。


 今のシーバンにとって、

 これを奪われることは、心臓を奪われることと同義。



 そんなシーバンに、

 この上なく尊き神の王は、


「じゃあな、シーバン」


 そう言って踵を返そうとする神に、

 シーバンは、


「ぁ、ぁの……名っ……」


 声がうまく出てこないのか、

 ハッキリと発音できなかったが、


「名ま……名まっ――」


 何を聞かれているのか理解できたセンは、




「書いてあるだろ」




 そう言って、その場から姿を消した。

 褒美はくれてやった。

 それ以上のサービスは過剰。

 神は自分を安売りしないのだ。


「ぁ……ぁ……っ」


 シーバンは、あわてて、冒険の書に書かれている名前に目を向ける。


 そこには確かに記されていた。

 尊き神の名――



「セン……エース……」



 その日、シーバンは神を知った。

 この上なく尊き神の王に触れた。


 その事実により、彼の人生は大きく変わる。

 が、それはまた別の話。




 ちなみに、シーバンと戦った『極限まで弱体化されたセンB』が、

 メービーのもとへと向かうことになるのだが、

 それもまた、別の話である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る