砂漠のタイガーマスク。

砂漠のタイガーマスク。


「……そんなに冒険の書が大事か? いや、もちろん、冒険の書は、大事なものだが、絶対に死ぬと分かっている相手に挑まなければならないほどのものか?」


「俺にとってはそうでもねぇよ……けど、あんたにとっては、そのぐらいの価値があるんだろう。なんせ、物好きに売れば『かなりでかい孤児院』でも100年ぐらいは余裕で運営していける金が手に入る代物だからな」


「……っ」


「さあ、行くぞ、砂漠のタイガーマスク。俺はまだ折れちゃいねぇ!!」


「……シーバンだ」


 言いながら、シーバンは、

 折れずに立ち向かってくるセンBに、


「ぐっへぇえええ!!」


 渾身の右ストレートをぶちこんだ。


 吹っ飛んで、転がって、

 血を吐いて、痙攣して、

 視点が定まらなくなって、

 意識が朦朧として、


 しかし、

 センBは、


「……まだ、まだぁ……」


 立ち上がる。

 まるでゾンビのようにヨタヨタしながら、

 しかし、それでも、まだ両の拳を握りしめる。


 そんなセンBの狂気を目の当たりにして、


「お前を突き動かしている動機はなんだ」


 その純粋な質問に、

 センBは、

 答える。




「――お前の『ソレ』と大してかわらねぇよ……」




「……」


「届きたい明日のために、必死になって、わき目もふらずに、今日という地獄を生きている。『手に入れたい明日のためならば何でもする』と覚悟を決めて、決死の覚悟で毎日を積んでいる!」


「……」


「いくぞ、『シーバン』。お前には特別に……俺の上限(リミット)を見せてやる!」


 叫びながら、

 センBは、限界まで魔力とオーラを込めた拳で殴り掛かった。

 渾身の一撃。


 『これでおわっていい……』とまでは思っていないが、

 『今日はもう動けなくていいから……』という覚悟が積まれた、

 『現時点のセンB』における最強の一撃!




「――閃拳!!!」




 その一撃を、


 ――ガツゥゥンッッ!!


 シーバンは、よけずに、顔面で受け止めた。

 カウンターで入ればもう少しダメージも入っただろうが、

 堅に徹している今のシーバンには、さほどダメージが入った様子はない。

 というか、仮にシーバンのHPを『1000』とした場合の、

 『20~30』くらいのダメージしか入っていない。


「お前の拳……重たかったぞ。想像していたよりは……ずっと」


 そう言ってから、

 シーバンは、

 センBの顔面に、

 ――全力の拳を叩き込んだ。



「ぶはっっ!!」



 がっつりと極大ダメージが入り、

 センBは吹っ飛ぶと同時に気絶して、

 フワァっと、軽やかな粒子となって霧散していった。


 ――その光景を見たセンは、

 一度、ゆっくりと頷いてから、


「見事だ、シーバン。俺の分身を倒すとは、あっぱれ」


 かるく拍手をしながらそう言った。

 その言葉に対し、

 シーバンは、


「ちょっと小突いただけ。褒められるようなことじゃ……ってか、お前、何を上からモノを言ってんだ。お前に褒められたって、ちっともうれしくねぇよ」


 心底ダルそうにそう言った。

 センBの覚悟を認めはしたが、

 しかし、当然『自分の方が圧倒的に上位者である』という自覚に変わりはない。


 センは、そんなシーバンのプライドを受け止めると、

 穏やかに微笑んで、




「そうか。なら、これではどうだ?」




 そう言って、

 少しだけ、

 ――ほんの少しだけ、

 ――『シーバンの魂』にだけ届くよう、ほんのわずかに、


 その『いと高き神気』を開放した。

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