決闘を所望する。

決闘を所望する。


 いつもなら、すぐに返事がくるのだが、

 今日は、いつまでたっても返事がなかった。


(この時間はいつも、執務室で、書類仕事に追われているはず……もしかして、寝てしまったのか?)


 そう思いながら、少しだけオーラ探知の感度を上げて、

 ドアの外から、中の様子を確認してみる。


 すると、



(……? いない……?)



 不審に思ったゴートは、

 扉を開けて中に入り、周囲を見回した。


(……出かけた? いや、どこに行くにしても、一応、俺には声をかけるはず……)


 などと思いながら、執務室の中をきょろきょろと探ってみると、

 彼女の机の上に、雑な字で書かれた置き手紙があった。


 その内容は、


「っっ?!」


 いたって単純で、

 『リーンは預かった。返してほしければ、

  サイコゾーン・サンクチュアリに来い。決闘を所望する』

 というものだった。


 置き手紙の中身を確認したゴートは、

 たぎる怒りに身を任せ、

 タンッと、地面を蹴った。

 一瞬で姿が掻き消え、

 次の瞬間には、

 サイコゾーン・サンクチュアリの扉前にいた。


 蹴やぶるような勢いで中に入ると、

 開口一番、




「どこのアホか知らんが、死にたいなら、秒で殺してやるから、さっさとかかってこい、ぼけ、ごらぁあ!」




 赤鬼のようなバチギレの顔でそう叫ぶゴート。

 しかし、ここに敵の姿はなく、


「……リーン……」


 彼の眼前には、『浮遊しているクリスタルに閉じ込められているリーンの姿』があるばかり。


 ゴートは、すぐさま、そのクリスタルに駆け寄ると、

 サイコイヴ‐システムを用いて、すぐさま解析分解しようとしたが、


(……か、解析不能っっ?! 今の俺に解析できないだとっ?! ふ、ふざけやがって……今の俺のレベルは100兆だぞ……『解析できない』なんてコトがあっていいワケ……くっ……な、ならば……)


 ゴートは、オーラソードを召喚し、リーンを傷つけずに、クリスタルをスライスしようとしたが、


 ――ギィンッッ!


 と、『絶対に切れない』と一発で理解できる異次元の『硬さ』を体験するだけだった。


(おいおい、なんだ、このクリスタル……どんな素材で出来てんだよ……かすり傷一つ、つけられる気がしねぇ……いやいや、いやいやいや、あっていいわけねぇだろ、そんな素材……)


 焦りから冷や汗がにじんできた。

 と、ほぼ同じタイミングで、


「っ?!」




 ギチギチィっと、

 奇怪な音が響いた。




(……手紙の差し出し主か……?)


 ゴートは、奇怪な音がした方に視線を向け、即座に戦闘態勢をとった。

 ゴートの視線の先では、

 次元の隙間に歪な亀裂が入っており、

 バチバチと、黒い電流を放出していた。


 数秒後、バチバチとうなるだけだった亀裂の奥から、


[…………kssi75622vusduosi33divhoviknsklniohishklvnslkdsba55665sksksl9988kfh]


 一人の青年が這い出てきた。

 十七歳くらいに見える黒髪の青年。


 その青年は、


[xb2222677agigdf2311auncbajdfg99878aiuvakncla3321dajcgbj6678cladja8888gdufgahlcnl]


 高速で口を動かして、何かを発している。

 聞き取れる速度でも言葉でもない。


 ただ、その異常に速い喋る速度は、次第に遅くなっていって、


[utuh55567nvvdnas112212clasbcla999jbajalnchbabjdhaohbjbxakljhljhlajdbhlajbdkjabkajbkajbhghagdkhabkjbhgiygakjbkhvkjv;huikbskjcbm,cnslkhsfrujgbv,jsnxfck,nvlsjbfkhdbxjkcnv,xbcvbxkjcnvslnvjxnklcnklxnjkbxkjcnjxknlkvnxljnjxnknxcnslkznzlkvljxhlkjzk7ewohiefng09u-9w3ejw9dj9jwe90wd902jfiocj4記憶データ、登録『不可』……」


 ついには、言葉を発する。


「……人格インストール『不可』……」


 その青年は、どこでもない虚空を見つめたまま、




「……俺はダレだ……」




 ボソっとそうつぶやいた。

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