……俺はダレだ……

……俺はダレだ……


「……人格インストール『不可』……」


 その青年は、どこでもない虚空を見つめたまま、


「……俺はダレだ……」


 ボソっとそうつぶやいた。


 その発言を受けて、

 ゴートは、戦闘態勢をとったまま、

 最大限に警戒しつつ、


「……『それ』は俺が知りたい所なんだが……」


 鬱陶しそうにそうつぶやいてから、


「俺にラブレターを送ったのはお前か?」


 そう言いつつ、

 システムを使って、目の前の青年を解析しようとした、

 ――が、


(こいつも解析できねぇ……どうなっていやがる……いったい、なにが……)


 困惑しているゴートの視線の先で、

 謎の青年は、

 ラリったような目をして、


「はぁ……はぁ……」


 と、呼吸を少し乱しながら、

 頭を抱え、


「俺は……俺は……」


 重度のジャンキーのように、イカれた感じでブツブツと、


「俺は……センエース……」


 ボソっと、そう言った。


 その発言を受けて、ゴートは、眉間にしわを寄せて、


「お前がセンエース? ……『そうではない』と断言する理由を、俺は持ち合わせていないから『決定的なこと』は何も言えないが……しかし、お前みたいな、ヤク中感が強い変態が『理想の神様』だとは思いたくないってのが本音だな……」


 などと軽口をたたきながらも、

 裏では、全力で、頭もスキルもフル稼働させ、

 この状況を好転させようと画策していた。


 しかし、ことごとくが失敗していた。

 どの角度から解析しようと、すべてが完璧に弾かれてしまう。


「俺は……」


 青年は、

 ゴートの事などシカトして、

 自分自身の奥へとトリップしつつ、


「俺は……P型センエース3号……」


 ぼそぼそと、誰に言うワケでもない、

 ただの独り言をつぶやきつづける。


 そんなP型センエース3号に、

 ゴートは呆れ交じりの声で、


「……ちったぁ会話をしようぜ……言っておくが、お前が登場してから、すでに30秒以上経過しているが、話は一ミリも前に進んでねぇぞ。『頭も名前もおかしい』という点以外で、お前について理解できるコトが一つもねぇ。というわけで、そろそろ前に進もう。俺の質問に答えろ。俺の質問が届いていなかったというのなら、もう一度だけ言ってやるから、耳をかっぽじれ。――俺を呼んだのはお前か?」


 などと言いながら、ゴートは、P型センエース3号の処理方法を思案していた。


(ブチ殺しても大丈夫か……? わからねぇ……こいつを殺してしまったら、クリスタルが砕けて、同時にリーンも死ぬ……みたいな、ふざけたトラップの可能性もなくはない……)


 状況があまりにトリッキーすぎて、

 初手を打つのに時間がかかってしまう。


 『P型センエース3号を殺せばリーンを取り戻すことができます』という、初期のファミコンなみに明快なストーリーなら、非常に楽なのだが、もし、『P型センエース3号は起爆スイッチみたいなもので、殺してしまったアウトです』的な、悪質で狡猾なワナだった場合、目もあてられない。


 ――と、ゴートが、P型センエース3号の処理に関する二択に悩んでいると、

 P型センエース3号が、またボソボソと、

 『誰に言っている』というワケでもないラリったトーンで、


「俺に敗北を認めさせない限り……永遠に、リーン・サクリファイス・ゾーンが解放されることはない」


 などと、そんなことを言い出した。

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