最後の攻防。

最後の攻防。


「……俺は、閃光を纏(まと)う冒涜――その強大な器に寄生する亡霊。『この上なく尊き神の王』を煩(わずら)わせた時計仕掛けのオレンジ、蝉原勇吾」


 今もなお『蝉原センキー』のままだが、

 しかし、彼は、堂々と、蝉原勇吾を名乗った。


 だからというわけではないけれど、その名乗りに応えるように、

 センも、


「俺は究極超神の序列一位。今日、この瞬間だけは、貴様を終わらせるためだけに踊る月光の龍神。舞い散る閃光センエース」


 言葉はすぐに世界へ熔けていった。

 けれど、

 想いは、蝉原の中で、永遠を思わせる輝きを放つ。


 爆発しそうな心を胸に抱き、

 蝉原勇吾は飛翔した。


 出来る全てを賭して、

 蝉原は、センエースと闘った。


 もちろん、『戦い』になどなってはいなかった。

 今のセンエースからすれば蝉原の駆除など児戯に等しい。


 相手にならなかった。

 あまりにも、今のセンエースは強すぎる。


 数え切れないほどの絶望を背負って、

 無限のイバラ道を突き進み、

 決死の覚悟で、『今日』に辿り着いた神は、

 当然だが、




 ――次元違いに、強すぎたんだ。




「君とここまで踊れるヤツが……他に何人いるかな、閃くん」


「さぁな……何人いるかは知らんけど……きっと、『ソンキー』なら、いつかまた、俺と踊れるようになるだろうな……」


 センエースの、その発言を受けて、

 蝉原は、一度、ソっと目を閉じて、


「…………うらやましいよ」


 ボソっとそう言った蝉原に、

 センエースは、穏やかな口調で、


「この強さに至った俺が?」


 神の問いに触れて、

 蝉原は、


「君に信頼されているソンキーが」


 最後に、ニっと微笑んで、



「さて、閃くん。いい時間だし……そろそろ、フィナーレといこう」



「ああ、そうだな」


「――あっと、その前に、一言だけ言わせてほしいんだけど、いいかな?」


「好きにほざけよ」


 了承を受けると、

 蝉原は、コホンと息をついて、


「君は、俺なんかじゃ理解できないくらい……果てなく美しかったよ」



 そう言うと、

 召喚していた魔刀を、腰の鞘に納めて、

 グっと体の至る個所を屈曲させて、ググっと力を溜める。


 タメ時間は、ほんの数秒。

 もちろん、『センエースとの闘い』という条件の前では、永遠を超える長い時間。


 センエースがその気になれば、余裕で潰された。

 けれど、センエースは見逃した。

 当然。

 ――だって、



「――// 羅刹(らせつ)・真羅(しんら)・輪廻一閃(りんねいっせん) //――」



 凶悪な威力の一閃が、

 時空を裂きながら、

 まっすぐに、センエースを襲った。


 素晴らしい一撃だった。

 圧倒的な存在値を器にした、強力な攻撃。

 それは間違いない。


 間違いない……が、

 ハッキリ言って、

 今のセンエースからすれば、

 酷くチンケな技だった。


 あえて、ガキのお遊戯と評してもいい。

 遠い将来『花開く可能性』は極めて高いが、しかし、今はまだまだツボミ。

 そんな、どうにも青くさい一撃。


 だから、

 センエースは、クッと、軽く踏み込んで、

 居酒屋のノレンでもくぐるような気安さで、

 蝉原の『ガン積みされた一閃』を払いのけると、


 そのまま、



「……閃拳」



 魂の正拳突きで、

 蝉原の心臓をブチ抜いた。


 キンッ……と、輝くような弾く音がして……

 魂魄が鮮やかに飛び散って……


 ――世界だけではなく、蝉原の肉体に対してさえも『無駄な破壊』が起こらないよう、

 もろもろに配慮しつつ、『エネルギーという概念』を完璧にコントロールした一発。


 蝉原の腹部から拳を引き抜いた時、

 センの腕には、血が一滴もついていなかった。

 『究極超神技』としか言いようがない、完全で完璧な正拳突き。


「……」


 残されたのは、胸の部分だけポッカリと穴が開いている蝉原。

 蝉原は、自分の胸の穴をチラ見してから、

 センと視線を合わせた。


「ふ……ふふっ……」



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