センエースがたどり着いた場所。

センエースがたどり着いた場所。


「……」


 残されたのは、胸の部分だけポッカリと穴が開いている蝉原。

 蝉原は、自分の胸の穴をチラ見してから、

 センと視線を合わせた。


 交差する視線。

 恐ろしく澄んだ目で蝉原を見ているセンエース。

 まるで、時空がズレてバグったみたいに、

 艶やかに鮮やかで、そして、極まって穏やかな時間だった。


 ――蝉原は、


「……ふふっ」


 『自分の今』を飲み込んで、

 柔らかく微笑んだ。


 そんな蝉原に、センは、


「蝉原……なぜ、ゼンの……いや……『俺』の技を使った?」


 一閃は、もともとセンエースの技。

 ゼンは、その型を使っているだけにすぎない。


 ――凛と響く落ちつきのある声で『神』から問いかけられた蝉原は、

 少しだけ言葉を整えて、


「……不覚にも、憧れてしまったからだろうね。……きっと」


「憧れねぇ……」


 そう言ってから、センは、


「まったく嬉しくない……と言いたいところだが……」


 スっと、視線をはずし、ここではないどこか遠くを見ながら、



「不覚にも、少しだけ、自分を……誇らしく思ってしまった」



 なんて、そんな事を言うセンエース。


 蝉原は、


「……」


 言葉なく、

 ただ、小さく微笑み、

 一筋の涙を流しながら、

 スゥっと、世界に熔けていった。



 ――センエースは、

 蝉原の最後から目をそむけるように、視線を外したまま、

 『ここではないどこか』を見つめ続けていた。


 ……五秒後、

 蝉原が完全に姿を消してから少し経つと、


「……」


 短い黙祷を捧げてから、

 ジっと、自分の両手を見つめる。


 あらためて、

 今の自分が辿り着いた世界を認識すると、


「……ソンキー」


 第一アルファにいる究極超神(キ〇ガイ)に向けて、


「今度ばかりは、そう簡単に追いつけると思うなよ」


 ボソっと、そう言った。


 ――あのキ〇ガイなら、いつか『この領域』にまで届くことも不可能ではないだろう。

 本気でそう思う。

 しかし、さすがに、前ほど簡単には届かないだろうという自負。


「なんて言いながら、案外、あっさりと超えられたりしてな……」


 ボソっとそう言ってから、


「まあ、もし、そうなったとしても……またすぐに超えてやるがな」


 締めてから、少しの瞑想にふけった。

 浸透していく自分。

 そんな没頭を経て、


 センは、その視線を、

 彼女達に向けた。



「……」



 センは、高次の凛々しさを保ったまま、彼女たちの元まで歩くと、


 ……ギュっと、

 二人同時に抱きしめて、


「俺がいる限り、未来は死なない。俺が必ず、全ての絶望を殺してやる。だから……何も心配しなくていい」


 言葉が、二人を包み込んだ。

 とても、とても、温かいメッセージ。

 とろけそうになって、

 脳が甘い痺れでいっぱいになって、


 けれど、

 ただ溺れるわけにはいかないから、

 ギュっと、自分を引き締め直して、


「別に心配なんかしていまちぇん」

「何も心配などしておりません」


 二人は、

 センに負けない凛々しい目をして、そう言った。


「……そうか」


 ニコっと微笑みながらそう言って、

 スっと、二人から離れ、

 ゆるやかに背を向けて、


 その視線を虚空に向けて、

 スゥと軽く息を吸ってから、




「ひかえおろう」




 優しくそう言葉を投げかけると、

 まるで、『ははぁ!!』とジャンピング土下座でもしてきたかのような勢いで、

 パリィィィィイイイイインっと、笑えるほど豪快な『弾ける音』がして、

 『認知の領域外』は砕け散った。


 まるで、何事もなかったように、

 二次試験の舞台である『MDワールド』に戻ったセンは、

 周囲を、スーっと見渡してから、


「確か……三次試験に進めるのは、上位50人だったな……」


 そうつぶやくと、

 スっと、左手を天に掲げた。

 その直後、


 ドドドドドドドッッ!!


 と、無数のエネルギー弾が放出された。

 そのエネルギー弾は、

 まるで意志を持っているかのように、

 自由自在に動き回り、

 センが『不合格』と判断した受験生を次々と葬っていく。


 当然、殺しきっているわけではなく、

 リタイアを強制させるだけ。


 ――50人以下になったのを確認したセンエースは、ボソっと、


「ちきゅうじん、みんなころした。さあ、たたかうぞ。たたかうヤツだせ」


「はぁ? 誰に言ってんでちゅか?」


「気にするな。ただのテンプレだよ」




 50人以下になった事がトリガーになったのか、

 そこで、



『現時点をもって、二次試験を終了します』



 そんなアナウンスが流れた。

 ほかの受験生の視点で言えば、

 あまりにも唐突がすぎる、意味不明な幕切れだった。



 とにもかくにも、冒険者二次試験、終了。

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