リハーサルもバッチリ。

リハーサルもバッチリ。


「おわり、おわり! はい、終了! 世界、おわりました! P型センキーが、世界をペロリといっちゃいました。『世界』ってのは、あいつが『美味しく頂くための豚』にすぎませんでした! めでたし、めでたし! 以上ぉおおおおおお!」


 慟哭は、常に筋の通った正論で、

 だから、余計に、ハリボテの情動を固執させていく。


 この世界は、『頑張らなくていい理由』で溢れている。

 この世界では、積み重ねた分だけ苦しくなる。


 誇張でも、空言(そらごと)でもなく、

 事実、世界は、いつだって、『崩れるのを待つ砂上の楼閣』でしかない。


「俺を信じている連中は全員バカだ! 俺に寄りかかり、俺を利用し、俺に依存するだけのクソばかども! まとめて全員死んでくれ! すぐでいいぞ!」


 『自分以外の何か』に当たり散らして自分を守る。

 この『ブサイクな弱さ』が、ここちいい。

 『逃げていいんだ』って証が、全身を優しく包み込んでくれる。


 ドロっと甘い蜜。

 体が軽くなった。


 なるほど、これは、中毒になる。

 理解できた。

 センエースは、脆弱(ぜいじゃく)という麻薬の価値を正当に理解する。


「ああ、なんだ……これで良かったんだ……簡単な事だった……こんなにも簡単に、自由になれたんだ……静かな安息……豊かで、優しくて……」


 ――『イタズラな領域外の牢獄』――

 ここは、

 センエースという原始概念を殺すためだけに創られた固有世界。


 『そのため』に、

 『そのためだけ』に、

 幾千億(いくせんおく)のアリア・ギアスが積まれた限定空間。


 何度も、何度も、何度も、くりかえされた試行錯誤。

 おそろしく丁寧に整えられた下準備。

 D型を使ったリハーサルもバッチリ。

 この空間こそが、対センエースにおいては、完璧最強の特異領域。


 『それでも』――と、湧き上がってくるセンエースの胆力を端から殺しつくす。

 この世界は、『立ちあがること』を許さない。


 どれだけ『心の強い者』でも、『ここ』では『ただのクズ』になる。


 たとえ『根性キ〇ガイ集団ゼノリカ』の『天上』に属する者であろうと、

 ここに『現状のセンエースと同じ条件』で閉じ込められたら、

 絶対の『待ったなし』で、一秒と持たずにへし折れる。


 耐えられるはずがない。

 耐えられてはいけないのだ。

 確定で、間違いなく、誰であろうと、ここに閉じ込められた瞬間、

 一言も言葉を発する事なく、魂を持たない屍になるだろう。


 ――だが、センエースはまだ喚いている。


 いまだ、センエースが、ごちゃごちゃと喚いているのは、

 まだ、『言い訳』に頼らなければ『自分を折る事』ができそうにないから。

 センエースは、今、必死になって、

 自分に対し『はやく折れろ』と言い聞かせている、


 つまりは、

 まだ折れていないのだ。




 ――センエースは、

    まだ闘っている――




「ああ……自由だ……これでいい……この安息以外、何もいらない……スッキリとした……心も頭も……すべて……楽で……自由で……だから……」


 奥歯が軋む音がした。

 血走った目は、とても『自由になった男』のソレとは思えない。

 安寧や自由なんて言葉を使ってはいけない、

 ひどく歪んだ、狂気の表情。



「俺はもう闘わない……絶対に……絶対にだ……」



 全力で、『折れろ』と自分に言い聞かせる。

 必死になって、屈服させようとしている。


「俺は……もう降りた……降りたんだ……すでに……とっくに……もう終わっているんだ……だから……」


 たくさんの言葉を使った。

 山ほどの言葉を使った。


 センエースは、『センエースを折るため』に、必死になって、


「折れろ……いい加減……なんで……」


 けれど、


「……どうして……」

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