そんなのイヤだ。

そんなのイヤだ。


「もういい! もういい! もういい! 地獄で踊るのは、もう飽き飽きだ! これだけ頑張ってきて! これだけ苦しんできて! けど、『ソンキー』にも、『P型センキー』にも負けた!」


 強い部分が死ぬと、

 弱い部分が強く表層に出る。


 陰と陽。

 五行の相侮(そうぶ)。

 それは無限の連鎖反応を起こし、すべてのメモリを凌辱する。

 抑え込んでいた弱さが、遠慮や配慮を見失って、みっともなく爆発する。


「結局、天才やチーターには勝てなかった! 俺はバカな凡才! どれだけ努力をしても! 報われることなんてありえない! 俺は、一生! このまま苦しみ続ける! なのに、がんばりつづけるのか? 意味なく努力して、永遠に苦しみ続けるのか? そんなの! そんなのイヤダァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 『どうせ、報われない』

 『どうせ、努力したって』

 『どうせ、天才やチーターには勝てない』


 ――どうせ、どうせ、どうせ、



「もういい! 誰もくれないというのなら、俺は俺に、『諦めていい』って許可書を与える! そのぐらいは許される! 許されてしかるべきなんだ! 俺は、俺を許していいんだよ! 誰にも文句は言わせねぇ! 俺に文句を言えるやつなんて、この世にいねぇ!」



 許しのこじき。

 どこまでも、みっともない叫び。

 けれど、誰も、彼を非難できない。

 できるはずがない。

 だって……


「そうだろ! 当然だろ?! だって、お前ら、俺より努力してねぇじゃん! いるのか、この世に一人でも! 俺より努力したやつが!」


 ダセェ叫び。

 『努力だけ』を誇りだしたらおわり。

 『誰かと比べてどうか』なんて、

 『本当』は、誰にとっても、どうでもいい事なのに……


「俺より苦しんだやつだけが、俺にモノを言う権利をもつ! つまり、誰も俺に文句は言えねぇ! 誰にも文句はいわせねぇ!」


 結局のところは、恥さらしの野卑(やひ)な言い訳。

 センエースは、全身全霊で『逃げていい理由』だけを並べていく。


「耳鳴り! 全部! 戯言! すべて! もうムリ! もういい! 俺のターンは終わった! 俺はもう休む!」


 『今やらなければいけない理由』から、必死になって目をそむけ、

 『明日にまわしていい理由』だけを、必死に磨いて、並べて、揃えて、


「今度は、お前らが頑張れ! 俺は知らん! 俺はもう充分にやった! もう、俺の時間は終わったんだ! いい加減、その事実を理解しろ!」


 センエースの中に在(あ)る『弱さ』が、


「そもそも、『俺だけ』が頑張らなければいけない理由がどこにある?! 俺にしかできない?! それは、明らかに、そっちの怠慢だろ! 運命のせいにして逃げてんのは、そっちだろうがぁ!」


 『正論』を主張する。

 正論は、いつだって、最強の言い訳。

 そして、たどり着くのは、みんな同じ設問。



 ――どうせ死ぬのに、どうして頑張るの? 意味なくない?



 限りなく『最強に近い力』を持ち、かつ、不老不死の神であるセンエースですら、

 こうして、現在、抗いがたい『無様な死に際』にいる。


 それは、つまり、結局、みんな死ぬってこと。

 どんなに頑張っても、どんなに必死になって努力を積んでも、

 結局、こうして、呆気なく死んで、全部なかったことになるってこと。


「おわり、おわり! はい、終了! 世界、おわりました! P型センキーが、世界をペロリといっちゃいました。『世界』ってのは、あいつが『美味しく頂くための豚』にすぎませんでした! めでたし、めでたし! 以上ぉおおおおおお!」

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