いいだろう。お前のワナにまんまとかかってやる。

いいだろう。お前のワナにまんまとかかってやる。



「30パーセント……微妙なラインだな……あんたの全力がどの程度か不明だから、なんとも言い難いけど……」


「どうだ、ゼン。今の俺なんか倒したって、なんの自慢にもならないんだし、ここは、少し待ってみないか?」


「……ふむ」


「1号のデータが追加された俺は、間違いなく、お前と悪くない勝負ができる。俺は、どうしても『1号のデータが追加された俺』になりたい。その願いさえ叶えれば、あとは、お前に負けてもいい……というわけで……この通り、伏して頼む……少し待ってくれないか?」


 ほんの少しだけ悩んでから、ゼッキは、


「……いいだろう。お前のワナにまんまとかかってやる。好きなだけ時間を稼ぐがいいさ。なさけないままの貴様を倒しても自慢にはならんからな」


「そうか。そいつは、たすか――」


「――なんて言うと思ったか? ありえねぇよ」


「っ?!」


「俺は、『相手の提案に乗って自分からピンチを整えた上で、綺麗なフルボッコをくらったあげく、息子まで殺されるような、どっかのマヌケなM字ハゲ』とは違うんだ」


 ゼッキは、とうとうと、


「……『今のあんたの全力』が『本気の俺』を超えているって状態なら、負けたとしても『敗因』は、単純な『俺の力不足』でしかないが……ナメプかました上で負けたら、言い訳のしようがない『大戦犯』になるだろうが。そんなクソみっともない『責任』という名の厄介な『荷物』を自ら背負うマゾな趣味はない」


 当たり前の正論を述べていく。


「……どうしても今日この瞬間に『俺がどのくらい強いのか』をデジタルに試さなきゃいけないって訳じゃない。この世界には、ゼノリカって厄介な輩がいて、そいつらを倒すってのが俺の基本的な目的である以上、俺がどのくらい強いのかを試すチャンスは、この先、いくらでもある。わざわざ、あんたという、『妙に不気味な相手』でリスキーチャレンジをする必要はない」


「……」


「というわけで……死ね」


 ゼッキは、全身を包むオーラと魔力を充満させて、

 P型センエース2号との距離を一気につめると、

 情け容赦なく、

 ボッコボコにしていく。


 よどみなく、ミラージュポーンでタコ殴り。

 時折、ミラージュクイーンで高貴に追撃。

 剣の翼が煌めいて、

 ミラージュナイトが華麗に援護する。


「ぐげっ! うげっ! うぼっ!」


 聖なる殺神アスドラ・ゼッキ・ミラージュの動きは、非常に軽やかで滑らか。


 ゼッキはとまらない。

 決してナメプに走らない。

 その強大なオーラを、丁寧かつ残虐かつ凄艶(せいえん)に振りまわす。


 ゾっとするほど美しい禍々しさ。

 何度も言うが、『ゼッキの戦闘力』は決して高くない――が、

 ゼッキの戦闘力には、奇妙な色気があった。


 気付けばジっと眺めてしまう――そんな、華のある艶やかな武。

 『神に開かれた高次インテリジェンス』と、『いつか神になれる可能性を秘めた光』の甘美なマリアージュ。


 ――ゼッキは、


「存在値が今の俺に匹敵するだけあって、HPがハンパなく高いな……けど、流石に、そろそろ死ぬだろ?」


 そう言うと、

 両手にオーラと魔力を込めはじめる。


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