進化を止めるな。

進化を止めるな。



「ソードスコール・ノヴァ」


 そう詠唱すると、

 ウラスケの周囲に、100本を超える『魔法の剣』が召喚された。


 ソンキーが続けて、


「――呱々(ここ)の声、

   心を寄せて、うたかたの、

   干戈(かんか)に濡れた杯(さかずき)を干す――」




 詩(うた)を並べると、

 100本を超える魔法の剣は、

 酔ったように、奇怪なダンスに興じつつ、

 瀟洒な嵐のように、

 リズムの乱れたステップを踏みつつ、

 ウラスケへと襲いかかった。


 ザクリ、なんて、無粋な音は聞こえない。

 ただ、スルリ、スルリと、

 軽妙洒脱に、ウラスケの全身を、薄く刻んで、かつらむき。


 ――薄っぺらな嘘となったウラスケの魂魄を、

 ソンキーは、粗雑にすくいとって、


「無様だな……本当に、タナカトウシと同じ血が流れているのか、はなはだ疑問」


「……」


「言葉すら失ったか……ゴミが」


 ソンキーは、感情のない声でそうつぶやくと、

 ウラスケの魂魄をその辺に投げ捨てて、


「さて、それじゃあ、サクっと終わらせようか。もう少し楽しいゲームになるかと思っていたんだが……拍子抜けだ」


 言ってから、

 ソンキーは、右手を、バグに向けて、



「じゃあな」


 核を破壊し、

 アスカとナナノの魂魄も奪い取ろうとした、

 ――が、


 しかし、そこで、






「――ナぜ、進化を止めタ――」






 ウラスケを包んでいたバグが、ボソボソと、



「――マだまだ、いけただろウ――」


 精気のない、

 電子音のような声で、



「――スでに許容量の限界? 知ったことカ――」



 禍々しい黒いオーラが、

 ユラユラとうごめいて、



「――コの、胸の叫びを昇華させる。そのためなら、いくらでモ――」



 もう止まらない。

 バグは、リミッターを失った。


「――サあ、謳おう、謳おうじゃないカ――」


 グンと、

 膨らんで、

 直後、

 バチンと弾けた。



 弾けて、砕けて、

 また集まり直して、


 そして、バグは、

 最後の理性を失った。



「――ィギイイイ――」



 そんな、異常な状態に陥っているバグを見て、

 ソンキーは、ボソっと、



「壊れ堕ちたか……」



 そう言ってから、


「……垂涎の展開だな。『ただの的』が『狩る価値のある獲物』になってくれた。くく……うれしいねぇ」


 ニタニタと笑みを浮かべ、


「誇れ。お前は、俺を磨く砥石。俺のために肥大し、俺のために死ぬオモチャ。さあ、行くぞ……殺してやる」


 一度、ギンと睨みをきかせてから、

 ソンキーは、右足にグンと力を込めた。


 ダンと、衝撃波が舞って、

 異常な練度の瞬間移動で、ソンキーは、空間を駆け抜ける。


 最速で最短距離を駆けたソンキーは、

 そのままの勢いで、

 右手に込めたオーラを、

 バグへと叩き込もうとした、


 ――と、その時、



「キィイイアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」



 バグが、天を仰ぎ、

 奇声を発した。

 その耳障りな音は、

 歪に連鎖して、

 けれど豊かに手を取り合って、

 一つの『大きな塊』になると、


 じゃれつくように、

 ソンキーへと襲いかかった。


「うぐぅっ――」


 あまりの圧力に、思わず声を漏らしてしまったソンキー。

 明確なダメージ。

 頬に刻まれた傷から高貴な血が流れる。


 ――『心底ナメ切った相手』から受けた『ちょいとシャレにならない一発』。

 油断が招いた、狂おしいほどのダサさ。

 そんな自分のみっともなさに怒り心頭。


「ゴミが……っ。見るも無残なカスの分際で、この俺に、恥をかかせやがって……っ」


 静謐(せいひつ)なブチ切れに身を任せ、

 豪速にブーストをかける。


「膨れ上がっただけの虫ケラが……はしゃいでんじゃねぇ」




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