まだ足りない。

まだ足りない。


「ゴミが……っ。見るも無残なカスの分際で、この俺に恥をかかせやがって……っ」


 静謐(せいひつ)なブチ切れに身を任せ、

 豪速にブーストをかける。


「膨れ上がっただけの虫ケラが……はしゃいでんじゃねぇ」



 常に限界を超えていくスタイル。

 背後に回るフェイントで揺さぶりながら、

 ソンキーは、バグの死角に潜り込み、


「女二人の魂魄は……まあ、あとで回収して復活させればいいか。多少、後遺症は残るだろうが、知ったことか。手前らの『弱さ』が原因だ。受け入れろ」


 ボソっとそう言いながら、

 チラっと、『先ほど、バグから引っぺがしたウラスケ(朦朧とした状態で倒れこんでいる)』に視線を送り、


「お前は後でゴチャゴチャ言うだろうが……この代償の責任は、守りきれなかったお前にある。文句は受け付けない」


 そう言葉を述べてから、

 スゥと軽やかに息を吸い、

 そして、


「――異次元砲――」


 莫大な魔力とオーラを込めた照射を叩きこむ。

 コスモゾーンの法則がなければ、

 全ての命を蒸発させていただろう、ヤンチャが過ぎる一撃。



「グガァアアアア!!」



 強大なエネルギーの照射を受けて、

 バグは、苦悶の声をあげたが、

 それは、ほんの一瞬の話で、


「ギィイイ!! ガァアアアア!!」



「……っ……ちっ。今の異次元砲で死なねぇのかよ。クソ以下のカスでも、存在値だけはハンパじゃないってか……鬱陶しい」



「ギギギ! ガガ!」


 すぐさま、損傷部位を蘇生させると同時、

 バグは、損傷状況から、ソンキーの居場所を割りだし、

 そのまま、


「ズァアアアアアアッッッ!!」


 精緻な『魔力の捻出』などではない、

 ただのゲロビ――オーラの咆哮を放った。


 無粋かつワガママに暴走する凶暴なエネルギーをその身に受けて、

 ソンキーは、



「はっ……チンケだな。こんなカスみたいなゲロビが、俺を溶かしてたまるかよ」



 バグのオーラを無慈悲に凌辱し、

 強めの気合一つで、容易かつ完全に打ち消してみせた。


 その様を見たバグは、


「……マだ足りないカ……」


 かすれた声で、


「……『タナカウラスケの助力』という『純度の高いキッカケ』を経て……盛大に壊れ堕ちながら……まだ……ぐッ」


 ボソボソと、


「……コの差では……絶死を積んでも……おそらく……まだ足りヌ……」


 グニュグニュと、形を変えていき、


「ナらば……」


 整った人型になると、

 ナナノとアスカの声を足したような、スっと通る声で、


「賭すしかないか……」


 そうつぶやいてから、天に向かって、


「世界中の同族よ! 私に『限気(げんき)』を分けてくれ!」


 そう叫んだ。


「私は示した! 私こそが、最も優秀な個体! 他の誰が、この『究極なる闘神』と対峙できるだろうか! 私だけだ! 私だけが、『ここから先』の『領域』に辿り着く事ができる!」


 その演説は、

 すぐに佳境へと達し、


「私を選べ! 迷う理由がどこにある! 私と共に、究極の神を超えろ!!」


 その叫び・願い・命令は、

 世界に響き渡ると同時、






「――それでいい!!」






 『彼女(バグに性別はないが、一応)』の思うままに、呼応した。

 認めざるをえない功績。


 届かなかったとはいえ、

 最強神ソンキー・ウルギ・アースと対峙してみせた『彼女』は、

 間違いなく、最高位の個体。



「きた! きたぞ! ははははははは!! 私が! 真に完成していく!」



 どんどん存在値を増していくバグを、

 ソンキーは、腕を組んで見ていた。


「面白いな。『ゴミみたいなカケラ』を回収しているだけだというのに、雪だるま式に存在値が膨れ上がっている……どういう理屈だ? 聞いてやるから、一説ぶってみろ、虫ケラ」


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