優等種と劣等種。

優等種と劣等種。



「そんな気はしてた……確証はなかったけど、たぶん、そうなんだろうなって」



 アスカの黒刃をはじき返しながら、ナナノは、冷静にそうつぶやく。


 アスカは、一瞬だけ、ギリっと、『心底ウザったそうな表情』を浮かべたが、

 すぐに、スっと表情をフラットに戻して、


「……いつから?」


 そう問いかけると、

 ナナノは、視線を外しながら、


「ちょっと前。正確にいつだったかは……忘れた」


 淡々とそう答えた。

 感情のない声。

 友人に向ける声ではない。

 敵対者に向ける殺意の色。


 ――アスカが尋ねる。


「誰かを殺した経験は?」

「ないわよ、親殺しのあんたとは違う」


「……つまり、完全な初期状態ってわけね」

「どういう状態かなんて知らない。なに、あんた、そんなに、コレに詳しいの?」


 そんなナナノの問いを無視して、

 アスカは、ニっと笑い、


「……劣等種の初期個体。食える……余裕で……宿主ごと、あんたの全部をもらう」


「ずいぶんと、ふざけた事を言ってくれるわね」


 そこで、ナナノの全身を、黒いオーラが包み込む。

 その様子を見て、アスカは鼻で笑い、


「ナメているのはそっち。気配で分からない? ……ぁあ、それもわからないレベルか。じゃあ、教えてあげる。あなた程度じゃ、私の足下にも及ばないってこと」


 そこで、アスカは、自身のオーラを膨らませてみせた。


 それを見て、ナナノは、




「……っっ?!」




 思わず、ゴクっとつばをのんでしまった。

 彼女の中にある『本能』が最大級の危険信号を鳴らす。


「どうして……そんな……」


「この数年間で、私が食ってきた『命』の数は三ケタを超えるから」


「さんけた……っ」


 そこで、繭村アスカは、ニっと笑い、


「初期状態のあなたと違い、私は、すでに、最終形態まで進化している。『繭村アスカ』は、『私』を正しく理解していないから、『昨日の輩』程度にも怯えていたが……私がその気になれば、あの程度の連中、どうとでもなる」


「……昨日の……輩?」


「我々を狩ろうとしている者。神話狩りとか言っていたかな。ははは……それなりの力を持っていたようだけれど、最終形態にまで進化した私を狩れるほどじゃない」


「……」


「それに、今の私には、そこそこの力を持った下僕もいる。あれはいい。まだまだ発展途上で、現時点の力は、私に及ぶべくもないけれど、しかし、潜在能力は凄まじい。さすがは、『この銀河の正当なる支配者』の血統といったところ」


「下僕……まさか、田中裏介のこと?」


「神話狩りとの闘いで成長したタナカ・イス・ウラスケと、あなたたち劣等種という『養分』を喰らい尽した私が一つになれば、『究極の神』をも超えた絶対の個体『究極最終形態ネオグレートバグ』となれる。その時、世界は、本当の『運命』を知る……」


「あんたと、田中裏介が一つに……そ、そんなこと……絶対に許さない……」


「ん? ああ、まだ、宿主の意識を完全に抑え込めてはいないのか。ほんと、ハンパな個体ね。私のような優等個体とは比べ物にならない、完全な劣等種。私は、優等種だから、最初から、『根源的な人格』以外の全てを掌握していたわ」


 そこで、アスカは、両の拳を握りしめ、


「食べる前に、少しだけ魅せてあげる。優等なバグの、正しく進化した、美しい姿を」

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