仲裁とカマトト。

仲裁とカマトト。


 爆音が聞こえて、

 ウラスケは、バっと上空に視線を移した。


 そこでは、


「お、おいおい……」


 黒いオーラを纏った高瀬ナナノと、

 同じく、

 禍々しいオーラを纏った繭村アスカが、

 空を駆けながら、バッキバキに殺し合っていた。


「……屋上で話し合うどころか、屋上を飛びだして殴り合っとるやないかい……」


 ボソっと、くだらない事を口にしてから、

 ウラスケは、背中に、剣の翼を召喚して、グワっと飛びあがる。


「ちょっと、待て! ストップ! ケンカ、やめろ!」


 ウラスケの声が耳に届くと、二人は、

 動きを止めて、下から飛んでくるウラスケに視線を向けた。


 ウラスケは、彼女達と同じ高度まで飛ぶと、

 そこで停止して、彼女達を見渡し、


「よし、まずは落ちつけ。そして、状況を整理しよう。えーっと……まったく、わけが分からんのやけど……とりあえず、さっきの一瞬だけでも、君ら二人が、ただのか弱い女子でないことは理解できた。かなり驚いたけど……まあ、ぼくも、普通やない力を持っとるわけで……だから、まあ、それはそれとして、その先の話し合いをしよう。……まず、えっと……なんで、殴りあっとんの?」


 その問いに答えたのは、ナナノで、


「この女が気に入らないから」


 そのスパっとした物言いに、

 ウラスケは、


「ぉ、おう」


 としか言えなかった。


 気まずい空気の中、

 次は、アスカが、


「田中くん、助けて。……ナナノが……急に、襲ってきて……だから、私は、仕方なく、応戦しているだけで……」


 と言った。

 その発言を受けて、ナナノが、分かりやすく顔をゆがめた。

 ギリっと奥歯をかみしめて、


「このアマ……」


 怒りをあらわにする。

 ナナノは、すぐさま、


「先に手を出してきたのは――」


 と、反論しようとしたが、

 その言葉を、ウラスケはいっさい聞いておらず、

 ウラスケは、いぶかしげな顔で、アスカの目をジっと見つめていた。


「なに? どうしたの?」


 アスカが、そうたずねると、

 ウラスケは、バリバリに警戒心を見せながら、




「お前、誰や……繭村ちゃうやろ」




 そう言った。

 疑問符すらつかない問い。


「……」


 シンと、空気が止まった。

 数秒の沈黙を経てから、

 アスカがボソっと、


「なぜ、そう思うの?」


「いや、見たら分かる……雰囲気が全然ちゃう……具体的に言うと……魂の色が違う……」


「……変な事を言わないで。私は――」


 反論しようとしたアスカに、

 ウラスケは、強い視線と言葉で、


「ナメんなよ」


 と、言い切りつつ、

 召喚した剣の切っ先を、彼女の鼻先につきつけた。


 それを受けて、アスカは、面倒臭そうに視線を外すと、


「……まあ、別にいいけれど」


 そうつぶやいてから、

 パチンと指を鳴らした。


 すると、


「っっ?!」


 ウラスケの全身がビリっと痺れて、指一本動かすことができなくなった。

 ウラスケは、


「ぐ……ぬぃい……」


 全力で抵抗するが、まったくの無駄。

 そんなウラスケの無駄な抵抗を鼻で笑いながら、

 アスカが言う。


「どっちみち、繭村アスカの魂は、私が握っている。となれば、あんたは、私の言う事を聞くしかない。そうでしょ?」


 イヤな笑顔でそう問いかけてくるアスカ。

 続けて、


「さて、田中ウラスケとの正式な契約は後にするとして……」


 アスカはそう言いながら、ナナノを睨みつける。


「まずは、あなたの捕食からね」

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