タナカウラスケの学校生活。

タナカウラスケの学校生活。


 ナナノと別れたあと、

 学校に向かい、歩き出す二人。

 数秒、無言だったが、

 ふいに、


「田中くん」


 名前をよばれて、ウラスケは、


「へ? なに?」


 そう返事をすると、わずかな時間――『2~3秒の間』を経てから、

 アスカが、無理に感情を殺したような、変にフラットな声で、


「ナナノって、かわいいよね」


「急にどうした」


「ただの雑談。こたえてよ」


 フラットな圧力に押され、

 ウラスケは、少し委縮しつつも、

 しかし、なんとか、


「……まあ、高瀬は、カースト最上位の美少女様やからなぁ……そら、まあ、もちろん、カテゴリ的には、チョーかわいいに分類されるやろう」


 淡々と、自分の意見を並べていく。


「加点方式で点数をつけた場合、好みが反映されるから、バラつきが出るやろうけど、減点方式にしたら、目も鼻も肌も髪も、どこにもマイナスをつけられんから、普通に満点になる……そういう、稀代の美少女――」


「一般論なんて聞いていない。私は、あなたの意見を聞いている」


「……」


「あなたの視界に、彼女はどううつっているの? 正直に答えて」


(なんか、取り調べを受け取る気分やな……ぁあ、しんどい、しんどい……)


 ウラスケは、心の中で深い溜息をついてから、


「まあ、かわいいと思う……非常にレアなルックス……」


「つきあいたいとか思う?」


「まあ……普通に……」


「そう」


 平坦な声でそう言うと、以降、アスカは無表情のまま黙りこくった。

 そんな彼女の奇妙な態度を受けて、ウラスケは、心底辟易した顔で、


(……この空気、きっついなぁ……くそが……なんで、こんな目にあわなあかんねん……)


 と、また、心の中で溜息をついた。



 ★


 学校に到着すると、

 二人は、他者の好奇心を刺激しない『適切な距離』をとって、

 いつも通りのルートを通り、自分の席についた。


 アスカは誰ともしゃべらずに、カバンから『本』という名の分厚いバリアを取り出すと、おもむろに『現在、本を読んでいますので、声をかけるのは、ご遠慮ください』系のATフィールドを展開する。


 そんな彼女をチラ見しつつ、

 ウラスケは、『友人』と談笑を開始した。


「タナッカマン、ごめん。昨日教えた小テストの範囲、ちがってた」

「三時間目のやつ? エエよ、べつに。大丈夫、大丈夫」

「さすが、タナッカマン。『範囲なんかどうでもいい。俺が受けたテストにつく点数は100以外ありえない』……ってやつだね」

「ってやつかどうかはわからんけど……」


 ウラスケには、普通に友人がいる。

 ウラスケは、『当然』、成績でブッチぎりの学年一位を取っているが、

 そんなことよりも、『友人がいるという事』の方がはるかに自慢だった。

 その事実があれば、『自分は、タナカ家の連中とは違うのだ』と言い張っていられるから。


 友人である『無能な彼』との会話で得られるものはゼロだし、

 わずかも楽しくないし、

 心底かったるくて仕方ないし、

 『ふざけたあだ名つけやがって、殺したろか』と憤慨しているが、

 しかし、そんなことはどうでもいい。


 『イカれた血筋の連中』と『違うステージ』に立っているか否か。

 それだけがウラスケにとっての全て。


(……しかし……このアホは、どうして、こうもくだらん事しか喋られへんのやろうか……そうしてアホをさらし続けるより、黙っといた方が、社会にとってまだ有益やと思うんやけど……)




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