神の試練を乗り越えた者。

神の試練を乗り越えた者。


「偉大な英雄ねぇ……」

「何か言いたいことでも?」

「英雄やったら、救いを求める声に耳を傾けろや」


 ド直球に切り込んできたウラスケの言葉を、

 虹宮は、一度鼻で笑ってから、

 少しだけ言葉を整えて、


「傾けてくれたさ。聖主はなぁ……自分の命が危なかろうと関係なく、『助けてくれ』と叫んだ弱者のために、自ら迷わず地獄に飛びこんだ。おれは、そんな聖主の姿に憧れた。だから、おれは強くなれた」


「なら、なんで、繭村の声には耳を傾けてくれんのや」


「そこの彼女は、救いを求める弱者ではなく、弱者に脅威を与えるバケモノだから。前にきた二人が説明したはずだが?」


 そう言い捨てると、

 虹宮は、ギアを一つあげたように、

 先ほどよりも、火力と速度を上げて、ウラスケに対し、磨かれた武を叩きこんでいく。


「ぶはっ! くそっ! なんで、当たらへんねん! 鬱陶しいのう! お前、強すぎなんじゃ、くそったれ!」


「……こちらも驚いている。お前は、とてつもなく強い。磨かれた強さではなく、単純な資質。天然の原石。……たまにいるんだよ、お前みたいなヤツが……生まれつき、極端に偏った武の才能を持った者――」


「あのさぁ……一つ、聞かせて欲しいんやけど……その、武の髄? って、どうやって理解したん?」


「神の試練を受け、乗り越えた」


「……あの二人も、なんか、そんな妙な事言うとったな……なんやねん、神の試練って」


「厳しい試練だった……常に死と隣り合わせの地獄だった……だが、おれは乗り越えた。だから、負けない……絶望を知らない一般人に、おれが負けることはありえない。お前の才能がいかに破格であろうと、ここでおれがお前に負けることは絶対にない」


 そこで、虹宮は、闘いの手を止めて、


「質問に答えてやったんだ。お前も、おれの質問に答えろ」


「……なんや……」


「携帯ドラゴンの力……どうやって手に入れた? ちなみに、隠すなら、どんな手を使ってでも吐かせるつもりだと、最初に言っておく」


「別に、『同じような力を持っとる相手』に隠すつもりはない。隠すほどの理由とかないからな」


「では、教えてもらおうか」


「偶然や、偶然。それ以外のなにものでもない」


「……」


「疑うな。マジやから。あれは、二年くらい前のこと……つまり、小6の時、スマホで『携帯ドラゴン』のアプリを起動したら、目の前に、メルクリウスが出てきた。以上。そんだけ。それ以上でもそれ以下でもない」


「二年前から……」


 虹宮は、うつむいて、ぶつぶつと声を漏らしてから、


「過去に、携帯ドラゴンが絡んでいるであろう『奇妙な事件』が起きたという話を聞いたことは一度もないが……」


「ぼくは、凡人でありたかったから、妙な力を手に入れたから言うて、はしゃいだマネはせぇへん。『メルクリウスには何が出来るんやろう』という知的好奇心を満たすために、ちょっとだけ実験はしたけど、それやって、人様にはいっさい迷惑をかけてへん」


(こいつが、そうだったとしても、他の奴も、そうだとは限らない……もし、仮に、複数人が、携帯ドラゴンを入手していたとしたら、確実に、一人か二人は、携帯ドラゴンを使って、大きな事件をおこすはず……)


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