再生と自傷。

再生と自傷。


「うぼぉぇっ……どうして……なんで……」


 生きるのが嫌になるほどの気持ちの悪さ。

 命を放棄したくなるほどの不快感。


 体の奥の方から、得体のしれない熱が発せられるのを感じた――


 ――と、

 そんな、痛みの中で、もがいていると、

 ウラスケの視線の先で、



 ――ギニニッ



 グチャグチャに潰れたアスカの頭部が、

 グニュグニュとうごめいて、

 飛び散った脳が再生されていき、

 ついには、


「……ごふっ」


 頭部が完全に元に戻り、息を吹き返した。


 その一連の様子を見たウラスケは、



「は……はぁああ……?」



 泣きそうな顔で、ただ、疑問符を口にする事しかできなかった。


 グチャグチャになった頭部が再生し、他の部分の損傷も、完全に回復したところで、

 繭村アスカはパチっと目をさました。


 そして、ゆっくりと体を起して、


「……なんで……死ねないの……」


 そうつぶやいてから、

 頭を抱えて、


「どうして! どうして!! なんでぇ!! あぁあああああ! もうイヤァアアアア!! 死んでよ! いい加減にして! キモい、キモい、キモいぃいい!!」


 自分の全身のいたる個所を、何度も何度も殴りつける。


 頭を地面に叩きつけ、

 ふところから取り出した刃物で自分の体を切り刻む。


 しかし、先ほどの頭部と同じく、全てのキズが、みるみる治ってしまう。


 そんな、彼女の奇行・異常を、すべて見ていたウラスケは、

 茫然としたまま、


「なんやねん……これ……」


 ドン引きした顔で、壊れた呆れ声を発することしかできなかった。


「き、気分悪いモン見せやがって……クソが……」


 ボソボソと、文句を垂れ流しながら、

 ウラスケはゆっくりと、

 彼女の元へと近づいていく。


 アスカは、自傷に集中しすぎていて、

 ウラスケの存在に気付いていなかった。

 まるで、この世界には、自分以外、誰も存在しないと確信しているかのような没頭ぶり。


 そんな彼女のすぐ近くまで辿り着くと、

 ウラスケは、


「……もう、やめぇ」


 彼女の腕を掴んで、そう声をかけた。

 その瞬間、

 アスカは、全身をビクゥっと震わせて、


「……ぇ……どうして……」


 幽霊でも見ているかのような顔でウラスケの目を見るアスカ。

 大きな瞳だった。


 彼女は、『不完全な美少女』という言葉が相応しい女の子。

 高瀬ナナノのような、完成された美少女ではない。

 透明感はないし、整った美形というわけでもない。

 しかし、どこかに、異性を惹きつける魅力がある。

 華奢で顔が小さく、病的な白。

 妖艶さ――というと、また少し違うけれど、

 つい、グっと、強めに目が追ってしまう謎の魔性。


「なんで……私のこと……見えるの……」


「なんや、そのセリフ。幽霊きどりか。お前とは、毎日、学校で会うとるし、たまぁにやけど、話したこともあるやろ……ほれ、二週間くらい前に、ちょっとぶつかってもうて、『大丈夫か?』って声かけたやろ……そんとき、お前、ぼくに会釈したやないか……」


 ちなみに、それはわざとぶつかった。

 話しかけるキッカケにしようと思ったが、

 20度ほどの会釈をされるだけで終わった。


「あなた……もしかして……特別な人?」


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