助けて。

助けて。


「なんで、私のことがみえるの……あなた……もしかして、特別な人? ……だ、だったら……」


 グっと、近づいてきて、

 ウラスケにすがりつき、


「だったら、おねがい……」


 涙をぼろぼろとこぼしながら、


「……どうか……わたしを殺し……」


 声をふるわせながら、


「……ころ……し……」


 と、そこまで言ったところで、口を紡いだ。

 込みあがってきたから。

 とても小さくて、ほんとうにわずかな、希望。

 そんなもの抱いても傷つくだけだと知っているはずなのに、

 けれど、止まらず、


「こ……っ」


 だから、

 ブンブンと、首を振った。

 誰に対する否定なのか、なんの拒絶意思なのかはわからない。


 けれど、とまらない。


 繭村アスカは、また、大粒の涙をこぼしつつ、

 かすれた小さな声で、


 しかし、ハッキリと、






「……助けて……」






 とつぶやいた。



「おいおい……ちょっと、待ってくれや。なんや、この状況……」



 意味不明な『救い』を求められて、困惑がとまらないウラスケ。


「えと、まずは、話を聞かせてくれ。もし、アレやったら、力になれんこともないかもしれんから……ぇ~とえと、あの……と、とにかく、どこか、ファミレスかどこかで――」


 と、その時だった。


 ギィンと、何かが裂けるような音が聞こえた。

 音の方に視線を向けてみると、


 空間に、何やら、亀裂のようなものが入っていて、

 そこから、

 二人の男が出てきた。

 ――この突飛な状況を受けて、ウラスケは、渋い顔をしてつぶやく。


「おいおい、また、なんか、さらに、ややこしい事になってきたやないか……勘弁してくれや」


 同い年か、もしくは、少し年上くらいの、

 おそらく中学生であろう二人の男。

 彼らは、ウラスケとアスカそれぞれに一瞥をくれると、




「……おい、岡葉。討伐目標って二匹だっけ?」




 味崎がそう声をかけると、

 岡葉が、淡々と答える。



「いや、一匹だけだよ……女の方がネオバグで、男の方は……一般人だね」


「一般人……なら、なんであのガキ、ネオバグフィールドが展開されてんのに、ネオバグや俺らを認識できてんだ? 今も、がっつり、目があってんぞ。あいつ、完全に俺らの姿を視認している」


「さあ、特異体質じゃない? そういう人間もいるってことだと思うよ」


「そんなサラっとすませるようなことじゃないだろ。謎の特異能力者発見って、結構な大問題じゃねぇか」

「そうだね。だから、当初の予定どおり、ネオバグは排除して、男の方は、『聖域(第一アルファの認知領域外にある、神話狩りの拠点)』に連行してから、解析して情報を得ておくとしよう」




 二人は、会話を終えると、

 そこで、ゆっくりと、ウラスケたちの元まで近づいてくる。


 近寄ってくる味崎と岡葉の威圧感に、

 アスカはビクっと震えて、ウラスケにギュっと、強く抱きついてくる。


 そのぬくもりを受けて、

 混乱していたウラスケの心臓に覚悟が宿った。

 ドクンと強く鼓動して、大動脈に極端な圧がかかる。


 ほとんど反射的に、ウラスケは、

 ギンと、目に力を込めて、

 岡葉たちを睨みつけ、


「ちょ、待て、そこの二人、動くな、とまれ……ぼくの話を聞け」


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