高瀬ナナノの憂鬱。

高瀬ナナノの憂鬱。


「いや、実は、山下から、変な話を聞いて……繭村アスカは『自分の親を殺したことがある』とかなんとか……で、それが本当かどうか、確かめたかったんや……高瀬は、繭村と同じ小学校やったって聞いて、それで……」


「……」


「いや、うん、わかるで。今、ぼくは、クラスの女子の事情を探ろうとしとる。これがキモいってことくらい、ちゃんと分かっとる。けど、なんか、こう、モヤモヤしてな……なにがどうとは言えんけど……とにかく、確かめたかったんや……ただ、こういうことを、本人に聞くんは、流石にアレやろうって思って……で……同じ小学校出身の高瀬に聞いてみようと……思った次第で……ございます、はい」


「……はぁ……」


 ナナノは、なんだか、ガッカリしたような、それでいて、心底ダルそうな、そういう深い溜息をついてから、


「……アスカの事情とか、聞いてどうすんの?」


「いや、だから、別に、どうもできんけど、ホンマかどうかだけ確かめたくて――」


「だから、確かめて、どうすんの? 意味なくない?」


「……まあ……そうやなぁ……いや、自分でもわかってんねんで。別になぁ……真相を知ったところで、ぼくみたいな『普通の中学生』に何が出来るって訳でもないし……ぇと、だから……ああ、そう、アレや。クラスメイトが、親殺しって……イヤやろ。てか、ホンマやったら、学校に来られるわけないから、ウソなんは分かっとるんやけど……でも、なんかしら、その嘘のシッポに繋がる事情があるんやろうってことで、だから、その……」


「……なに言ってんの? 言いたいことは、ちゃんとまとめてくれない? ワケわかんないんだけど」


「……えと、あの……なんか、自分でもわからんのやけど!」


 そこで、ウラスケは、頭をかきむしってから、


「なんか、繭村って、いっつも無表情で、独りで、まったく喋らんで……で、あの感じが、なんか、こう……イヤっていうか……イヤっていうんもおかしいんやけど……」


「マジで、なにがいいたいの? ほんと、キッチリまとめてくれない?」


「あの……えっと……ぇと、あっと……ぁ、あのな!」


 そこで、ウラスケは決意を固め、


「実は、ウチの親戚って、変なヤツばっかりでな!」


「……急に、なんで親戚の話?」


「ウチの家系というか、『血』というかは、その……なんというか、ほんま、イカれてて……全員、なんか、異常にスペック高くて、その上で、孤高主義というか、『ト・モ・ダ・チ? それは、何星の言葉ですか?』みたいな感じのやつらで」


「……何が言いたいのか、ほんとうに全然わかんないんだけど」


「そ、そやな……概念的すぎたな……えっと、具体的に言うと……『独りでおっても平気』というか、むしろ独りでおりたい……みたいな感じ? 独りで自分を高めていって……それで世界はオールオッケーみたいな……友達とか邪魔やからいらん、みたいな」


「……で、それが何? いっておくけど、今、誰も、あんたの親戚の話とか求めてないんだけど」


「つまり、や……繭村って、そういうんではないやろ? ウチの親戚みたいな感じではないやろ?」


「……」


「なんか、こう……独りでいたいワケやないけど、みんなと一緒にいる訳にはいかないから近づきません……みたいな、なんていうか、見とるだけで、なんか、こっちの心とか胸とか色々な部分が痛くなってくるような、奇妙に重たい空気を出しとって……」


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