田中裏介の呼び出し。

田中裏介の呼び出し。



 窓の外は、でたらめな赤。

 ここは、とある中学の教室。

 二年B組。

 ――放課後の帰り際、『話があるから待ってくれ』と言われた高瀬ナナノは、

 律義に、他のクラスメイトが全員帰るまで待ってから、

 机の上に腰かけつつ、夕焼けに染まる空を見ながら、


「で? 話ってなに?」


 トイメンに立っている男子生徒にそう言った。

 彼は、ナナノを呼び出した、同じクラスの男子生徒。

 名前は、田中裏介(たなかうらすけ)。


「ああ、その……なんや……ぇと……」


 言い淀むウラスケに、

 高瀬ナナノは、流し眼を送る。


 ナナノは、ビシっとした真っ当な美貌の持ち主で、

 クラスカースト最上位に位置する美少女。

 無駄に派手な格好をしているわけでも、アホのヤンキーという訳でもない。

 ド直球の、綺麗な女の子。


 だから、ナナノは、『この手の状況』に慣れていた。

 今週だけで、既に、3回は同じような状況に出くわした。

 ――いや、まったく同じ状況ではない。

 正確にいうと、三回、呼び出しを受けただけ。

 『校舎裏で待っていてほしい』『昼休みに話がある』等。

 その全てを、ナナノは完全に無視した。

 今週の三回だけではなく、その手の誘いを、これまでは、ずっとシカトしてきた。


 彼女の流儀。

 『どうでもいい男に期待を持たせない』

 ナナノは、特に性格がいい女の子という訳ではないが、

 好きでもない男に気を持たせてもてあそぶタイプのクソ女ではなかった。


 ピシっと、一本筋の通った、どちらかといえば、固めの女。

 さっぱりとしていて、すがすがしい。


「はやくしてくれない? 急いでるんだけど」


「ぇ、あ、なんか、この後、用がある感じ? それやったら、待たしてもうて悪かったな……ぁ、もしかして、彼氏と約束とか?」


「……別にコレって用があるとかじゃないけど、いつまでもココにずっといたいワケじゃないから……あと、『今』は、彼氏とかいないし」


「ああ、そう……」


 変な沈黙が流れた。

 かみ合わない空気と、流される強調。


 ナナノは、所在なさげに、長い髪をいじりだす。

 ウラスケの額に汗が浮かぶ。

 視線がさまよう。

 互いに。


 なんだか、妙にモヤモヤとした空気は、


「ぁの、えと……ダラダラするんは好きやないから、単刀直入に聞きたい……」


 ウラスケによって整えられる。

 ウラスケは、一度、スゥハァと、軽めの深呼吸をして、


「ぁあ……えと……その、なんというか……あー」


 最後に、一度、またゴニョついたが、

 しかし、


「実は」


 覚悟を決めて、グっと顔をあげて、

 ナナノの目をジっと見つめ、




「繭村アスカについて……少し教えてほしいんやけど」




「……はい?」


 思ってもみなかった申し出を受けて、


「……アスカの……? ……は?」


 ウラスケの発言を理解するのに少し時間がかかった。

 想定の範囲外が過ぎた。

 一瞬、頭が真っ白になりかけた。


 が、グっと自分を立て直し、ウラスケの言葉を咀嚼して、理解しようと努める。

 二秒ほどかけ、なんとか完全に理解したところで、

 ナナノの顔は、どんどん険しくなった。

 彼女の人生史上、もっとも眉間にシワが寄った瞬間。


 だが、ウラスケは、そんなナナノの『盛大な表情の変化』にはいっさい気づかず、



「いや、実は、山下から、変な話を聞いて……繭村アスカは『自分の親を殺したことがある』とかなんとか……で、それが本当かどうか、確かめたかったんや……高瀬は、繭村と同じ小学校やったって聞いて、それで……」




【後書き】

新章のしょっぱなですが、

次章の予告を。



次章、最悪の凶敵『P型センキー』襲来!!

この章は、その布石!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る