――ここは、もう、誰もいない草原じゃない――

――ここは、もう、誰もいない草原じゃない――


「突き詰める、ナノ単位のムラもなく! そぎ落とす、醜い贅肉のすべてを!」


 アホな宣言は止まらない。


「可能性の全てを沸騰させて、限界という無粋を皆殺しにしてやる。努力って言葉の意味と価値を変えてやる」


 しまいには、概念にケンカを売る始末。


「俺の姿を見れば、この世の誰もが、例外なくドン引きするほど、バカみたいに積んでやる」


 とっくにみんなドン引きしている。


「何があろうと、絶対に止まってやらねぇ!」


 言われなくとも、知っている。

 お前は止まらない。


 ――だからこそ……



「すべての絶望を踏み台にして、無限の高みを目指し続けてやる!」



 全ての覚悟をならべてそろえて、

 最後に、




「俺が最強の神だ」




 そう締めた。

 真摯にぶっちぎったアホ丸出しの『キ〇ガイ宣言』をしたセンに、

 シューリは言う。


「それでいい。あんな愚弟に……あんな中学生ごときに……二度と負けるな、センエース」


 揺るぎない厳しさは、

 確かな指標になってくれる。


「あんたは、あたしの弟子。この世で並ぶ者がない、世界最強の神……この世の誰よりも美しい光。だから……」


 優しいだけの甘い抱擁なんていらない。

 そんなものは必要ない。

 ――甘さじゃ、弱さは殺せねぇ。



「二度と、負けるな」



 言葉に包まれて、

 だから、こぼれる。

 我慢していた涙が流れる。

 声が震えて、けれど、それでも、


「……ぁあ…………ああ……負けねぇよ。お前と、アダムと、ゼノリカと……俺の全部に誓う。これまで以上に、俺の全部を積み重ねて……必ず、あいつを超える……」


 覚悟を口にする。

 この世の誰よりも、想いと覚悟を積み重ねてきた神が、

 『もっとイカれた意地』を積むと決めた瞬間。


 実際のところ、贅肉なんて1グラムもない。

 今まで、甘えた事なんて一度もない。

 だが、それは、

 あくまでも『センエース以外の誰か』と比較した場合の話。

 これから先、センエースが比べていく対象は、『今までのセンエース』。


 『才能ゼロでありながら神の王になってしまった』ほどの『狂った努力量』が、

 今日からは、最底辺の最安値となった。

 そこが『絶対的な一番下』で、そこを下回ることは、どんな理由があろうと決して許されないという、絶対不滅のボーダーライン。


 ただただ、永遠に、『上』だけを目指し続ける、壊れた修羅。

 『最強』という、概念の呪縛にとらわれた、生きる亡霊。


 ――ここは、もう、誰もいない草原じゃない。

 ――カラっぽの頂上でもない。

 ――ここは、身を焦がす灼熱地獄。


「二度と負けねぇ……絶対に負けてやらねぇ……」


 血を吐くように、そうつぶやいた神。


 ――そんな神のもとに、ずっと、居場所を見失っていたアダムがソっと近づいてきて、

 涙を流している主の背中に寄りそった。


 フワリと、柔らかく、

 包み込むように、

 『その命すべて』で、センエースの魂を支えるように、


「……」


 背中に、アダムの温かさを感じたセンエースは、

 グっと、体に気を入れ直して、


「みっともない姿を見せちまった……悪い……アダム……ふがいない主で……」


 そう声をかけると、アダムは首を振って、


「あなた様は、今も変わらず、果てなく美しゅうございます」


 艶のある声で、そう言った。


 センエースは、ソンキーに負けた。

 しかし、どうでもいい、そんなこと。


 そんなことは、問題ではないのだ。


 今も、必死になって、気を張って、

 その強き瞳で『上』をにらみつけている主の背中だけが、


 ――アダムの居場所。


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