繭村アスカの事情。

繭村アスカの事情。


「なんか、こう……独りでいたいワケやないけど、みんなと一緒にいる訳にはいかないから近づきません……みたいな、なんていうか、見とるだけで、なんか、こっちの心とか胸とか色々な部分が痛くなってくるような、奇妙に重たい空気を出しとって……」


「……」


「……『助けてあげたい』とか、そんな大層な事は思ってないからな。ぼくは、そんな大それたことができる人間ではないから。ただ、なんやろ……なんか、その……一応はクラスメイトなワケやし、事情を『理解しておく』くらいのコトくらいはしてもええんとちゃうかというか……その上での、まっとうな、諸々の対処をするんがベストというか……いや、対処というか、『適切な距離を保つための情報を得ときたい』というか……その……」


 そこで、ナナノは、視線を外して、


「ま……なんとなく、言いたいことはわかったわ」


「ほんま? じゃあ、教えてくれる?」


 パァっと無邪気に顔を輝かせたウラスケに、

 ナナノは、イタズラな笑顔を浮かべ、


「そっちの秘密も教えてくれるなら、考えてあげる」


「は? ……ぼくの秘密?」


「あんたって、なんか、変っていうか……普通じゃない感じ? わかんないけど、奇妙なところがあるから、なにか面白い秘密でもあるんじゃないかなって前から思ってたんだよね。それを教えてくれるなら、アスカの事も教えてあげる。交換条件ってヤツ?」


「……えと、あの……まず、前提として、ぼくって奇妙なん? 自分ではまったくそんな風には思ってなかったから、今、普通にショックを受けとるんやけど」


 ガチでショックを受けている顔をしてみせてから、


「ぼくは……普通やろ? 普通の、どこにでもおる中学二年生。普通に友達がおって、勉強もスポーツも、普通に『頑張った分だけできる』っていうだけの……」


「そこ」


「はい?」


「あんたって、なんか、いろんなことを『普通にしようとしている感』が滲み出ているのよね。そこが奇妙。『普通だから、普通になっている』んじゃなくて、『頑張って普通に近づこうとしている』って感じがする。で、それが『成功している感じ』が一番奇妙」


「……」


「それって、なんで? なぜ、普通に近づこうとしているの?」


「……ぁあ、えっと……さっきも、ちょっと言ったけど……ウチの家系って、ちょっと変人が多くて……変人が多いというか、家系そのものが『ちょっとおかしい』というか……」


 ウラスケは、言葉を選びながら、


「ぶっちゃけると……あの連中みたくは、なりたくないんや。ぼくは、絶対に、『ウチの家系っぽい感じの人間』にはなりたくない。……その想いが変に強いから……ちょっとだけ、おかしな感じに見えるんかも……『普通に近づこうとしている』んやなくて……ぼくは、あの人たちと違って、『最初から普通』なんやけど、気を抜いたら親戚連中みたいな『ワケのわからん孤高感が滲み出る変人の感じ』が出ちゃうんやないかなって、ちょっと怯えとる部分があって……それが前に出過ぎちゃって、ちょっとだけ、変な感じになっとるんやと思う」

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