絶対的に埋まらない差。

絶対的に埋まらない差。


 ほんの数秒で、30人ほどが熔かされた。

 抵抗などできるわけがない。

 絶対的な差がそこにはあった。


 ここまで生き残った優秀な者たちを、ミシャは、アリでも潰しているかのような軽さで、鼻歌まじりに刈り取っていく。


 その、あまりにも救いがない地獄の光景に、

 隊長クラスの面々も、つい、数秒放心してしまっていたが、


「や、やめろぉおおお! おれがやる! おれと闘え!!」


 我に返った虹宮が、ダンッっと、地面を蹴って飛びだし、突撃する。

 これほどの絶望的状況下でも、体にムチを打てたのは、

 心に神が宿っているからに他ならない。

 もし、神の傀儡となった経験がなければ、

 あまりの狂気にあてられて、無様に失神していたことだろう。



 ――虹宮は、ミシャの後頭部めがけて、全力の拳を叩きこもうとするが、


「闘う?」


 背後からの攻撃を、ミシャは、ほとんど動くことなく、ヒョイっと軽く避けて、


「うぬぼれるな。いい加減にしろ」


 グイッと、体を半回転させて、勢いのついた拳を、虹宮の腹部に叩きこむ。


「がっはぁああああ!!」


 白目をむいて、口から盛大に血を噴射する虹宮。

 意識は飛んでいないが、激痛が過ぎたあまり、一瞬、頭の中が完全に真っ白になった。


「貴様ごときが、私と闘えるわけないだろう。身の程を知れ」

「うぐぐ……ぐっ……身の程をわきまえていようと、いなかろうと……」


 虹宮は、口から大量の血を垂らしながら、

 それでも、ギンっと目を強く光らせて、


「抵抗しなきゃ……死ぬだけだ……ただでは死んでやらねぇ……最後の最後まで……抗ってやる」


 決死の顔をしている虹宮を、ミシャは、


「……」


 ほんの数秒、黙って見つめた。


 わずかな静寂。

 張り詰めた無音を切り裂いたのは、岡葉。


「に、虹宮を支援する! こうなったら、全力でミシャンド/ラを倒すしか生き残る術はない!」


 覚悟を決めたというより、決めざるをえなかったという叫び。

 迷いが許されるなら、永遠に悩んでいたいところだが、

 現状はそうもいかない。


 虹宮が言ったように、黙っていたら殺されるだけ。


 神話狩りのメンバーは、全員で、ただ一人を殺すためだけに尽力する。


 己に出来る全てを賭して、

 ミシャンド/ラという脅威に立ち向かう。


 ――けれど、


「武の基礎すら知らないガキども……ただ、与えられた力を振り回しているだけの素人……そんなカス共が、この私と闘えるワケがない」


 ミシャは、終始、圧倒的だった。

 すべてが、鋭くて速い。

 充実したオーラと魔力は、常に、よどみなく流動していた。

 魔法も体技も、すべてが最高位。


 『距離』が、彼女に平服していたんだ。

 空間に溺愛されているミシャは、

 全方位からのベクトルに対し、

 常に、複素数であり続けた。


 実像なのか、虚像なのか、

 そんなナゾナゾだけが、神話狩りの意識を汚していく。


 アリと恐竜の闘い。

 つまりは、闘いになどならない。

 ただの蹂躙。

 壊されるだけの時間。


 次元も、格も、ケタも、全てが違う。

 ミシャは強かった。

 強すぎた。


 ――だから、


「ウソだ……ありえないよ、こんな強さ……こんなの、どうしようもないじゃないか……」


 岡葉は、悲痛の声をもらした。


「トウシくんがいても……ここまで差があったんじゃ……勝てるわけがない。こんなの反則だ……ここまでの強さだったなんて聞いていない……こんな理不尽……あっていいわけがない……」



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