気概。

気概。


「トウシくんがいても……ここまで差があったんじゃ……勝てるわけがない。こんなの反則だ……ここまでの強さだったなんて聞いていない……こんな理不尽……あっていいわけがない……」


 ネオバグとの闘いをへて、岡葉たちは、圧倒的に強くなれた。

 それまでとは比べものにならない急激なパワーアップ。


 もちろん、岡葉は、自分が『トウシより弱い』と自覚している。

 が、『サポートができるくらいは強くなれた』とうぬぼれていた。


 『岡葉たち』と『トウシ』の間には、常に絶対的な差があるが、

 ネオバグとの闘い以降、『次元違いの差』はなくなったと鼻を高くしていた。


 それは決して勘違いではなく、

 事実、『神様と野球勝負をした時のトウシ』と『今の岡葉たち』の間には、

 『影すら見えない距離』などはなかった。


 だからこそ、岡葉の心は折れた。

 『影すら見えないミシャの強さ』を知ってしまった今となっては、もはや、

 『トウシが来てくれればどうにかなる』とは思えなかった。


「……終わった……なにもかも……」


 崩れ落ちる岡葉。

 蒼白の顔で、力なく、自分の命にさよならを告げる。


 岡葉だけが折れたのではない。

 全員の顔が、『赤を抜いた後に残る青』に染まっていた。

 ここにいる全員が明確に理解した。


 ――自分たちでは、どうあがいても、この脅威を超える事はできない。


 あまりにも相手が悪すぎた。

 ミシャンド/ラという超常なる存在は、

 中学生が超えられるハードルではなかった。


 みなが、その絶対的な事実に押しつぶされそうになる。

 のしかかってくる、窒息しそうな絶望。


 ――そんな中、



「まだだ……」



 ズタズタになっている虹宮が、

 両の拳を握りしめ、


「おれは、まだ折れていない」


 『心の奥で湧き上がる炎』が、虹宮を突き動かす。


 虹宮自身、不思議だった。

 なぜ、こんな状況でも、まだ立ち上がって拳を握りしめる事ができるのか。


 『自分』が理解できない。

 いったい『何』に、ここまで突き動かされているのか、さっぱり不明。

 現状の虹宮は、自分自身に対して心底からドン引いている。


 けれど、止まらない。

 『極端なほど熱い炎』が、虹宮の全てを燃え上がらせる。


「絶対に折れてやらない!」


 叫びが全身を包み込む。

 爆発的な勇気で、命を推動させる。


「その気概だけは敬愛にすら値する」


 ミシャは、捨て身の特攻を決めてきた虹宮の拳を、その顔面で受け止めた。

 ギィンっと、硬質な音が響いて、衝撃波が周囲に起こる。

 しかし、痛みはまったく感じていない様子。

 ミシャは、虹宮の拳をピクリとも動かずに受け止めた直後、


「しかし、所詮は借り物。薄っぺらいとまでは言わないが、決して、『確かな本物』ではない」


 そこで、ミシャは、


「将来、たゆまぬ努力の果てに、本物になりうる可能性はゼロではないが、今の貴様は、ただの粗悪なレプリカ。神の威を借る虫ケラでしかない」


 ガシっと、虹宮の頭を掴み、


「本物の神であれば、私程度の絶望は、鼻歌交じりに乗り越えてしまうだろう。しかし、貴様では不可能。私すら超えられない」



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