闘いとは……

闘いとは……


(攻撃だけやない……距離をとろうと踏んだステップアウト一つとっても、負ける理由……闘いに使った行動のすべてが、負ける理由……)


 『勝利』という事象は、つきつめてみれば『結果的に相手よりミスが少なかった』という、それだけの結果論でしかない。


(タイミングと間合いのズレは、最大の負ける理由……でも、今のワシは、そのどっちに対してもあやふやな状態……)


 輪郭が見えた分だけ、弱さという歪みは濃くなっていく。

 闇雲のままだと、敵は水晶玉の鏡。

 万華鏡のように、芯の象(かたち)が、不確定に割れてズレるだけ。


(勝てる理由がない……ハンデとして主導権をもらっとるのに、ジャブの一つもいれられへん。何万回やっても、ワシは、ソンキーには勝てん)


 理解した分だけ、心が重くなった。

 『無意味』・『不毛』という二つの言葉が、トウシの魂魄を縛る。


 戦いは、合わせ鏡の螺旋階段。

 そのうえ、メビウスの輪になっていて、

 出口はどこにもない。


(……これが、これこそが『本当の戦い』という概念であるのなら……ワシでは……)


 トウシは、たやすく折れた。

 『挫折』が目の前で仁王立ち。

 顔を上げることすら億劫になる。


 手を伸ばしても届かないなら、手を伸ばす意味はない。

 海を飲み干すことはできない。


 できないことはやらない。

 効率主義者のド正論。


 『常識的に不可能』という当たり前の壁が、

 トウシという可能性を閉ざした。


 ――そんなトウシを見て、ソンキーは目を閉じた。

 ソンキーは、今のトウシを、100%理解する。

 闘いは、高次の会話。

 深く、お互いを理解できる対話。


 ――『かつて同じ道を通った経験者』として、

 トウシの気持ちが、一から十まで理解できたソンキーは、


「闘いとは……」


 その重たい口を開き、


「次元が上に行けばいくほど、地味になっていく」


 ボソボソと、


「相手が、いつか晒すであろう『負ける理由』を待つだけの作業になる……」


「作業……」


「作業の精度を上げる方法は、『死合勘』を積むしかない……浴びた殺気の量が、そのまま、作業精度の器となる。その器を、『死線の底で、もがき悩み苦しんだ数』で満たして、あふれて、こぼれて……そして、いつか、器に穴が開いていると気づき、注いだすべてをなくして、カラッポになって、愕然として、本当のゼロを知って、ぶっこわれて、ゆがんで、腐って……けれど、それでも『また、最初の器創りから始められるやつ』だけが、いつか、武の極みにたどり着ける」


(……ど、どれだけの絶望……どれだけの悲痛……ソンキーという神は……その全てを乗り越えて、今、ここに――)


 ソンキーという高みを理解した気になったトウシの耳に、

 また一つ、信じたくない事実がつきつけられる。






「――『かもしれない』というのが定説だ。それだって、本当かどうかは知らん。まだ、誰も武の極みにたどり着いていないからな」






「……」


「あのド変態ですら、真の極みにはたどり着いていない」


 そこで、ソンキーは、少し遠い目をして、


「あいつは、俺の一歩先を行ったが、それでも、まだ、『永遠に手探りを続けていく無間地獄』の中にいる。――究極超神の序列一位。神界の深層を統べる暴君にして、運命を調律する神威の桜華。舞い散る閃光。……そんな最果ての地位にあって、しかし、まだ……」


「……」

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