そなえ

そなえ


 ネオバグを倒した直後、気付けば、虹宮たちは、日本に転移する前の状態に戻っていた。

 そこには、アダムが待っていて、


「見事だ。ネオバグを倒したお前たちには、それぞれに10億MDPを報酬として与える」


「それぞれ10億……」

「また、とんでもない数字だな」

「サービス終了前のソーシャルゲーもかくや……」


「さらに、ネオバグ討伐ミッションをクリアしたお前たちには、300万MDPで回せる限定スペシャルガチャ『デストロイ・アルテマゴッドキャンペーン・ガチャ』の使用許可が出ている。クライシスのように、超高確率で究極レアが出るわけではないが、かなりの確率で究極レアが出る仕様になっている。これで、ミシャンド/ラとの戦争に備えるといい」


「……なんか、ずいぶんと親切というか……気前がいいですね」


「主上様は、理不尽を嫌い、ルールを遵守なさる御方。難しいミッションをクリアした者には相応の対価をあたえる」


「……へぇ」


 岡葉はそうつぶやいてから、心の中で、


(確かに、楽なミッションではなかったが、アルテマ・トランスフォームさえあれば、さほどの難易度ではなかった……何か、裏を感じるな……)


「戦争開始は数時間後。それまでに準備を整えろ」


 そう言って、アダムは瞬間移動でその場をあとにした。





 ★


「とんでもない強さだった……」


 闘いを見届けたセンは、渋い顔で、ボソっと、


「神話狩りがいない状態で、あんなもん(ネオバグ)が暴れたら、第一アルファは一瞬で壊滅するな……」


「あの虫は、もう死んだから別にどうでもいいじゃないでちゅか」


「歪みはまだ残っている。いまだ、俺の潜入を拒んでいるのがその証拠。もし、ネオバグの性質が、バグと同じなら……さっきのヤツのほかに、9999体いるってことになる。そして、もし、性質が完全に同じなら、一万匹を殺しきらないと、復活し続ける……」


「流石に、ネオバグ1万体の処理は、あのガキ共じゃムリでちゅね。第一アルファ……いい世界だったんでちゅけどねぇ、まあ、ドンマイ、ドンマイ」


「ドンマイですまそうとするんじゃねぇ」


 そこで、センは、アダムを呼びよせた。

 即座にあらわれて、うやうやしく片膝をつくアダムにセンは言う。


「ミシャに、『難易度を限界まであげていけ』と伝えろ。いっさい、手を抜かずに、ガキどもをイジメぬけ、と」


「おおせのままに」





 具現化した『ソウルレリーフ・ソンキー』との闘いの中で、

 トウシは、はやくも、戦闘という概念の輪郭を掴み始めていた。


(欠点がある……全てに……)


 トウシは理解した。

 『攻撃』とは、『負ける理由』。


(相手を削ろうとした分だけ、こちらは多くのスキをさらす)


 だが、同時に、


(だからといって、防御に徹するのは愚策。防御も『負ける理由』の一つやから)


 負ける理由が、相手よりも少ない方が勝つ。

 勝利とは、すべて、たまたまでしかない。


(攻撃だけやない……距離をとろうと踏んだステップアウト一つとっても、負ける理由……闘いに使った行動のすべてが、負ける理由……)




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