タナカトウシにしか出来ない不可能。

『前書き』

「センエースwiki」というサイトが公開されました。

そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。

「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*)




タナカトウシにしか出来ない不可能。



 廊下に出て、手ごろな多目的室を見つけると、トウシはジュリアと一緒に、その中に入った。

 若干、ヨタつきながら、奥まで歩みを進めると、

 トウシは、壁にもたれかかり、ズルズルと崩れていって、ペタンと尻をつき、

 天を仰いで、



「すまんかったのう……いろいろと……気ぃ使わせて」



 ボソっと、ジュリアにそう声をかけた。

 言われたジュリアは、ツンとした顔のまま、


「ここからは、総力戦を強制される。つまり、ここで、チームが折れると、万が一にも勝ち目がなくなるってこと……あんたを殺すのは私の仕事。他の誰にも渡さない」


 ボソっとそう言った。

 そんなジュリアの、いつもとまったく調子の変わらない発言を受けて、

 トウシは、フっと鼻で笑ってから、



「けど……ムリやで……ミシャンド/ラには勝てん……あいつは強すぎる」



 ボソボソと、


「弱点なんかない……実際に対峙してハッキリと分かった。あいつを相手にする場合に限り、『こうすれば勝てる』なんていう攻略法はない……あの女は、純粋に、ワシよりも遥かに強い……ワシでは想像できんくらいの長い時間をかけて、ワシでは想像できんくらいの絶望を乗り越えて、ワシでは想像もできんくらいの研鑽を積んだ結晶……それが、あの女の実態や……ワシ程度が勝てる訳がない」


「で?」


「で、だから、つまり……」


 そこで、トウシは、スっと立ち上がって、

 スゥ、ハァっと深呼吸をしてから、



 ――ギュっと、ジュリアを抱きしめた。



 そして、そのままゆっくりとキスをした。

 少し長いキス。

 30秒ほど、唇を重ね合ってから、

 トウシは、


「これから、死ぬ気で、あいつを殺すための準備を整える。生き残るために死力を尽くす。お前を守るために、一緒に帰るために……ワシは、これから、ワシの全部を賭してあがく……けど、それでも……」


「それでも?」


「それでも勝てんかった時は………………一緒に死のう」


「バカじゃない?」


 ジュリアは、虫を見るような目で、

 トウシを見下して、


「絶対にイヤ。あんたと一緒に死ぬくらいなら……」


「ワシと一緒に死ぬくらいやったら……なんやねん」


「あんたより強くなって、あんたを守る。あんたを殺すのは私。私のこの手が、あんたを殺すその日まで……あんたは絶対に死なない。絶対に死なせない」


 ジュリアの覚悟を聞いて、トウシは、うつむいた。

 声がでなかった。

 喉に、何かがつまって、声がかすれて、

 それでも、トウシは必死になって、のどをひらいて、


「それ……ワシが……お前に言わなあかんセリフやなぁ……」


 そう言うと、ジュリアは、まっすぐに、トウシを見つめて、


「あんたは、ここまでに、同じような事を、ずっと私に言い続けている。もう聞きあきた。だから、言わなくていい」


「……」


「あたしとあんたは、一緒に帰るの。そのための方法を考えなさい。そのためだけに、その世界一の頭を使いなさい。悩んでいる暇があるなら、全力でカッコつけなさい」


「……」


「圧倒的な力を持つ神様に勝って生き残る……それは、他の誰にも出来ない事……けど、あんたなら出来る。これは、あんたにしか出来ない不可能」


 ジュリアの言葉が、鎖になって、トウシの体を締め付ける。

 トウシの全身を縛り付ける、想いの鎖。

 その鎖は、彼女の心と繋がっていて、

 少し目を閉じると、トクンと聞こえた。


 だから、トウシは、


「最強の神様を倒して……生き残る。これは……ワシにしか出来ん不可能や」


 宣言する。

 たんなる繰り返しではない。

 想いのこもった本気のメッセージ。



 覚悟の証。

 命の証明。



 ――そんな、

 トウシの全力投球を受けて、


 ジュリアは言う。


「あんたみたいなカスが神様に勝てるわけないだろ。ふざけるな」

「おまえ、どうしたいねん!」

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