対話。

対話。


 少しだけジュリアに席をはずしてもらったトウシは、

 誰もいない多目的室で、座禅を組んで目を閉じていた。


 スゥっと息を吸い、ハァと吐く。

 それを、何度か繰り返してから、


「ソンキー……返事をしてくれ」


 そう声をかけた。

 反応はなかった。

 トウシは、もう一度、


「頼む……もう一回、力を貸してくれ」


 そう声をかけると、

 一瞬、

 風が吹いたような気がした。


 キィンと、共鳴するような音がして、

 そして、

 静かに、

 その声は響いた。






 ――お前はすでに、俺を理解している。貸せる力などない――






 脳内に響くその声は、

 さわやか系のイケボなのに、ズンと、腹の奥に響く重厚さがあった。


 ――トウシは言う。


「……『パワーをよこせ』とか『指導してくれ』とか、そんなんとちゃうねん。……ただ、ワシと闘ってほしいんや」


 トウシは、全力で言葉を選びながら、


「これまで、ワシは、与えられた力を振り回すだけのお人形さんやった。けど、そのままでは、神様はもちろん、ミシャンド/ラにも勝てん。あの狂気的なバケモノ共と渡り合おうと思えば……ワシ自身が、ちゃんと積まなアカン」




 ――他人に稽古をつける趣味はない――



 ソンキーは、そこで、息継ぎをして、



 ――得意ではないし、やりたいとも思わない。俺は俺が強くなる事にしか興味がない。前に、少しだけ手を貸してやったのが限界だ。アレ以上の何かをする気はない。そもそも、前に手を貸してやったことが、すでに例外中の例外なんだ。お前は俺を知らないから、よくわからんだろうが、俺の事をよく知っている周りの連中が、『お前に俺がやった事』を知れば、全員、度肝をぬかすだろう――




「わかっとる。あんたの事は……なんとなく分かる。『己の強さ』にしか興味がない、徹底して『他者』に無関心な、孤高の最強神」



 ――『元』最強神だ――



「ちゃんと分かっとるよ。……バロールとの闘いで、魂を少しだけ共有した事で、ワシはあんたの事を、ほんの少しだけやけど、理解する事ができた」


 だから、これまでのピンチでは頼らなかった。

 どうせ応えてくれないだろうと思っていたから。


 しかし、もはや、ここまできてしまうと、頼らざるをえない。

 恥も外聞もなく、

 遠慮もマナーもなく、トウシは詰めていく。


「だから、『力を与えてください』とか、『稽古をつけてください』とか言うつもりはない。ただ純粋に、まっすぐに……『殺すつもり』でええから……ワシと闘ってくれ」


 ソンキーは答えない。

 無音の中で、

 トウシは続けて、


「こっちの望みばっかり言うつもりはない。メリットを提示する。ワシと闘えば、あんたは、より強くなれる」


 ――興味深い発言だ。続けろ。聞いてやる――


「あんた、ぶっちゃけ、アホやろ?」


 ――勇気のある発言だ――


「頭が悪いって意味とちゃうで? 純粋戦闘バカって意味。んー、なんていうたらええかな……あんた、『闘う時は、むき出しでありたい』と思っとるやろ?」


 ――それがどうした――


「別にそれはええ。『その状態やないと出せん力』もある。完全に無駄を削ぎ落す事でしか届かへん、『没頭の果て』でこそ輝く武の結晶」


 ――結局のところ、純粋な戦闘力を磨く事でしか根源的な強さは得られない。小細工を無駄だとは思わない。奇襲を卑怯だとは思わない。だが、俺は、それら全てを飲み込む本物の最果てを求めているというだけの話――



「ワシはその逆を追求してきた男や――」




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