止まってくれない地獄。

止まってくれない地獄。


「……お前らがおらんかったら、出来んかった事……それは……まあ、事実……やから、まあ……その…………ありがとう……いろいろ」


 そう言ったトウシの姿に、裏でキュン死しかけているジュリアの向こうで、


「デレた! トウシくんがデレましたよ!」

「私達、ついにトウシくんを攻略したのね!」

「エンディグだぞ、お前ら、泣けよ!」


 他の面々も、トウシのデレに大はしゃぎしている。


 ――と、

 そんな、弛緩したムードは、






「こんな状況だというのに、ずいぶんと楽しそうね」






 背後から聞こえてきた声でピタっととまった。

 反射的に、全員が、声のしたほうに振り返ると、

 そこには、幼女体系の美少女が窓に腰かけていて、




「こんにちは。私は、三至天帝のミシャンド/ラ。あなたたちの次のイベント相手よ」




「……次の……敵……」


「あなた達というより……タナカトウシの敵と言った方が正確かしら。タナカトウシ以外じゃ、どう間違っても、私の相手はできないでしょうから」


 と、そこで、岡葉が、


「ずいぶんな自信ですね。あなたはそんなに強いのですか? そうは見えませんが」


 そう踏み込むと、

 ミシャは、ニコっと微笑んで、


「確か、あなたは、『ジャミ』にボコボコにされていた子ね」


「……それが、なにか?」


「私達の組織の階級は、絶対的な神であらせられるモンジン神帝陛下を頂点とし、そのすぐ下に側仕えのアダムがいて、その下に私達、三至天帝、その下に、五聖命王があって、その下に九華十傑がある。つまり、ジャミは、私の配下の配下ってこと」


「「「「「……」」」」」


「それだけの情報じゃあ、具体的には分からないでしょうから、デジタルに教えてあげるわ。ジャミが5人束になってかかってきても私には敵わない」


「「「「「「……」」」」」」


「口だけの情報だと信じられないかもしれないから、本イベント開始前に、少しだけ私の力を見せてあげるわ」


 そう言って、ミシャが指をパチンと鳴らすと、この空間がグニャリと曲がった。

 そして、講堂だった部屋は、広い荒野になった。



「これはあくまでも余興。殺しはしないから……さあ、好きにかかってきなさい」



 そう言って、ゆったりと両手を広げるミシャ。


 見た目はただの小柄な少女だが、かもし出されている雰囲気はハンパではなかった。


 この急な展開に、みな、逡巡していたが、

 岡葉が、


「殺しはしない……というのは本当ですか?」


 そう問いかけると、


「神に誓うわ。『この上なく尊い主』に立てた誓いを、私が破ることはない」


 その態度を受けて、トウシは、


(この幼女も、結構な狂信者やな……)


 心の中でそうつぶやいた。


 岡葉が、


「では、遠慮なく、よろこんで……次のイベントの対戦相手……その実力を見せてもらうとしようかな。トランスフォーム!」


 そう言って、携帯ドラゴンを纏う岡葉。

 9階での稼ぎで、それなりの数のメンバーが、トランスフォームを入手しており、その割合は、だいたい30人くらい。

 上位陣は、ほぼ全員がトランスフォームできるようになっている。


 岡葉は、

 ダっと地面を蹴りあげて、一気にミシャとの距離をつめると、

 『右手に召喚した剣』を振り上げ、


「うらぁあああああ!」


 血走った目でそう叫びながら、振り下ろした。

 迷いのない、まっすぐな、力強い一刀。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る