エンディングだぞ

エンディングだぞ



 トウシとの闘いを終えて、

 虹宮という殻から抜け出し、

 シューリの元まで戻ってきたセンは、


「そろそろ仕上げだな」


 ボソっとそうつぶやいて、


「これだけ、徹底的に磨いてやっているんだ。文句はないだろ、シューリ」


 そう尋ねると、

 シューリは、しぶい顔で、


「文句があるかないかで言えば、文句しかありまちぇんよ。神の王が、『現世の中学生とサシでやりたい』なんていう、『どの世界の条例にも引っ掛かる事間違いなし』なクソ寝言をほざいているんでちゅから」


「あのなぁ……あいつがブッチ切って異常な才能を持っているってこと、お前も、もう分かっただろ?」


「そんなことはどうでもいいでちゅ。才能なんてなくても、神の王にはなれまちゅから。オイちゃんが言っているのは――」


「ああ、もういい、めんどい!」


「なんて態度でちゅか、そんな子に育てた覚えはありまちぇんよ」


「うっせぇ、ババァ!」


「ババァとはなんでちゅか! 世界一美しい女神に向かって!」


「……いや、うん……まあ、否定は出来ないんだけどさぁ……」


「――『申し訳ございません、世界一美しい女神様。永遠の隷属を誓います。この惨めな下僕めに、足をなめさせてください』と言いなおしなちゃい」


「調子にのんな、ババァ!」



 と、そこで、アダムが帰ってきて、


 即座に、額を地面につけ、


「主上様、先ほどは、無礼な態度をとってしまい、まことに――」


 と、土下座をかましたアダムに、

 センは、


「アダム、お前は、俺のパシリとして、『俺の命令』と『俺のワガママ』、どっちを通すべきかという重大な選択肢を前にして、間違いなく正しい決断をした。思考停止したイエスマンなんかいらん。お前が謝ることはなにもない。つぅか、謝るなって言っただろ」


「寛大な御言葉、感謝いたします」


「今後も、そのままでいろ。今回のは、ただのユニーク・ハイテンションだが、もし、どこかで俺が本当に間違いそうになったら、ぶんなぐってでも、俺を止めろ。俺の隣に立つってのは、そういう事だ」


「主上様が『本当に間違う事』など絶対にありえませんが……御命令は、しかと承りました」






 ★






 なんとか、地獄の試合を乗り越え、元の講堂に強制転移で戻されたトウシたち。


 彼らに『しばしの休憩』を言い渡したアダムが瞬間移動でその場から去った瞬間、

 全員が、ワっとトウシのところに集まって、トウシという英雄を全力で讃えた。


「神に! 勝った!」

「トウシくん、ハンパないな!」

「これ、生き残れるだろ! トウシくんが神殺しを果たして、俺ら、余裕で生き残れるパターンの、ハッピーエンド的な物語のアレだろ!」


 ラスボス・鬼門である『神』に勝てたという事実は、彼らに大きな希望を与えた。

 ここまでは、どこかで、

 『結局、神様には勝てないから、最終的には、全員殺されるだけなんじゃ……』

 という不安があった面々だが、

 神との1打席勝負で、トウシが勝った事で、全員の心に、『まっすぐな希望』が灯った。


「いける! いけるぞ! トウシくんがいれば、俺達は生き残れる!」

「神様がなんぼのもんじゃない!」

「俺らは神話狩り! 神を殺す剣!」


 と、そこで、称えられ続けているトウシが、


「まだ、わからへん……野球の勝負で勝てたからって、それがなんやねん。ガチンコで殺しあったら、神様の方が確実に強いんや。球遊びの結果でうかれんな、アホども」


 辛辣な言葉を投げかけたが、

 しかし、


「……まあ、でも……」


 トウシは、そこで、口をモニョモニョとさせて、


「確かに勝てた……少しだけやけど、可能性は見えた……そして、それは……」


 全員を見渡して、


「……お前らがおらんかったら、出来んかった事……それは……まあ、事実……やから、まあ……その…………ありがとう……いろいろ」


 そう言ったトウシの姿に、裏でキュン死しかけているジュリアの向こうで、


「デレた! トウシくんがデレましたよ!」

「私達、ついにトウシくんを攻略したのね!」

「エンディグだぞ、お前ら、泣けよ!」



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