鼻で笑われるトウシ。

鼻で笑われるトウシ。


「おっと……どうやら、君、あまりガチャでいいのを引けなかったみたいだね……そっちの彼女は、そこそこだけど、君の携帯ドラゴンは酷い。ほぼほぼ初期状態じゃないか。チュートリアルは、彼女のおかげでクリアできたって感じかな?」


 MDデバイスに標準搭載されている『近くにいる携帯ドラゴンのスペックを測る機能』を使い、トウシの携帯ドラゴンのスペックを確認したオカッパ。


 そこで、トウシは思う。


(確か、超レア強化アイテム『ソンキー』のスキルには、フェイクオーラとかいう、『自分の強さを偽るスキル』もあったな……エルメスの強さがバレて、変に頼られても鬱陶しいし……ここは黙っておこうか)


 『極限に陥っている人間』は、『強さ』に依存する。

 現状は間違いなく『極限状態』で、トウシは『圧倒的な強者』。


 ――依存されるのは鬱陶しい。


(今のワシに『他人の面倒をみとる余裕』はない。『使える道具』は残らず利用させてもらうが、『使えない重り』は排除する。なにがなんでも生き残って、ジュリアと一緒に元の場所に帰る。最悪、ジュリアだけでも元の場所に帰す。それ以外はどうでもええ)



 オカッパは、トウシのデータをジックリと見てから、


「いやぁ、本当にひどいね……君の携帯ドラゴン、ぶっちゃけ、この中でブッチギリの最下位だよ。はは……『優秀な人』しか生き残れないと思っていたけど、どうやら、運がいいだけでも生き残れるらしい」


「運は悪い方やと思うけど? ガチャで弱いアイテムを引いとるんやから」


 『弱いアイテムを引いた』という『設定』で通そうと決めたトウシがそう言うと、

 岡葉は、フっと鼻で笑い、


「それがね、あのガチャ、実は、当人のスペックと比例していいアイテムが出る仕様みたいなんだ」


「……ほう」


「これは、あくまでも、みんなから話を聞いてみた限りでの推測だけど、どうやら、『初ログボのガチャ券』で引けるアイテムは、ガチャを引いた人間のスペックが大きく影響するらしい。あまり優秀ではない『君の頭』でも理解できるよう、簡単に言うと、優れた人間であればあるほど、高ランクのアイテムをひきやすいって感じ」


「……ふむふむ」


「実際、ガチャで当てたランクは、その当人のスペックに比例している。あそこにいる鈴木宝馬(ほうま)さんは、ボクと同じ私立なんだけど、彼女は天才級。ちょっと涼宮ハルヒタイプの『痛い天然系』だけど、頭脳はすさまじく優秀。なんせ、このボクと学年トップをあらそっているくらいだからね。で、あっちの佐藤拿(つかむ)くんは、たまたま塾が同じ人なんだけど、彼もかなりの天才級。あの二人は、ボクと同じく、かなり高位のアイテムをあてている」


 岡葉が指さした二人は、『かなりの美少女』と『デブのメガネ少年』だった。

 どちらもハイスペックで、この100人の中でもかなり上位に位置している。


「他の人の事は詳しく知らないけど、学歴を聞いた限り、全員、かなりの秀才ばかり。そして、学歴ランクが高ければ高いほど、比例して、高ランクのアイテムを引いている。というわけで、あのガチャは、ほぼ間違いなく、優秀さに比例して良質な強化アイテムを引ける仕様になっている」


「……ほう」


「それをもとに推測するに、君は……ふっ」


 と、また鼻で笑った。

 言葉を続けることなく、『もはやトウシになど興味はない』とばかりにスっと視線をはずし、

 ジュリアの方に視線を向けて、

 満面の笑顔で、


「はじめまして、ボクは、『岡葉 常(おかは つね)』。よろしく」


 トウシに対する対応とはまったく違う、

 キラキラとしたイケメンスマイルでそう言いながら、右手を差し出した。


 幼児でも『握手を求められている』と理解できる、そのまっすぐな姿を受けて、

 ジュリアは、


「……」


 汚物を見下す目をするだけで、何も口にしない。

 冷たい時間だけが流れていく。


「ぇっと、あの……き、君って、アレだね。めちゃくちゃ美人だね。驚いたよ。もしかして、モデルかな? それともアイドル? すごいよね。ボク、鈴木(ホウマ)さん以上の美人って初めてみたよ。それほどの美人なのに、携帯ドラゴンのスペックも、鈴木(ホウマ)さんなみに高い。つまり、同じくらい優秀ってことだよね。すごいや、完璧じゃないか。いやぁ、こんなワケわかんない状況になって最悪だなぁって思っていたけど、君みたいな完璧美少女と知り合いになれるチャンスに……恵まれて……その……」


 何を言っても、ジュリアは何も答えない。

 ただただ、無言の圧力だけが増していく。


「ぁの……えと……その……」

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