100人の中学生。

100人の中学生。


 ガチャで究極当たりを引いたことで、なんとか生き残ったトウシ。

 直近の危機はどうにか脱したが、


「で、ここ、どこやねん……」

「あたしが知るわけないだろ」

「べつに、お前に聞いてへん」


 ビルから出て、周囲を探索していたトウシとジュリアの二人。

 そんな二人の視線の先に、


「ん? なんか、あそこ光っとるな」


 光を放っている通路が見えた。

 二人は、少しだけ逡巡したが、


「まあ、こいつおるし……大丈夫やろ。頼むで、エルメス」


 と言いながら、トウシは、頭上で、ネコのように丸くなって寝ている携帯ドラゴンの背中を撫でた。


 トウシが、自身の携帯ドラゴンにつけた名前はエルメス。

 特に理由はなかった。

 なんとなく思いついた名前。

 ちなみに、ジュリアが自分の携帯ドラゴンにつけた名前は、自身の名前を取ったリア。

 こちらも、意味がないと言えば意味はない。


「さて……ほな、いこか」


 そう呟いて、光を放っている通路の中を進んでいく。


 100メートルほど進んだところで、


「……おっとぉ」


 広いフロアに出た。

 体育館くらいの広さで、そこには、


(100人くらい……か)


 同年代と思しき、制服を着た少年・少女が、たくさんいた。

 全員が、携帯ドラゴンを所有している。


 トウシとジュリアの登場を受けて、

 その100人の中の一人、オカッパ頭の男子中学生が、


「また増えた……」


 ボソっとそう呟いた。

 そのオカッパ頭は、ゆっくりと、トウシたちのもとまで近づいてきて、


「こんにちは。ボクは、岡葉(おかは)。学年は中3。たぶん、君もそうじゃない? 今のところ、ここにいるのは、全員そうだから」


 そう声をかけてきた。

 その男は、おしゃれオカッパ(モサっとした感じではなく、ヒカ碁のアキラ的な)で、全体的にアカぬけている。

 かなりスラっとした体形で、服装も、小粋に崩している。

 クラス内では確実に中心にいるであろう、一軍オーラをかもしだしている。


 そのオカッパ――岡葉に、トウシは、


「ああ、ワシも中3。名前は田中。よろしくどうぞ……で、これ、なんや?」


 と聞くと、


「ボクも知らない。気付いたらここにいた」


「……ここに? 最初から?」


「いや、最初は巨大な洞窟に飛ばされて、そこで妙なゴーレムに襲われたよ……けど、色々あって、この携帯ドラゴンの卵を見つけて……それで、初ログボのガチャ券でガチャをひいて、その強化パーツを使ってゴーレムを倒したら、光の道が出てきて……」


「なるほど。ワシらと、だいたい同じか。若干、チュートリアルステージが違うみたいやけど。……ワシらは洞窟やなくてコンクリートジャングルやった」


「話を聞いてみた感じ、ここにいるのは、みんなそう。ステージはバラバラだけど、流れはだいたい同じ」


「ふむふむ……で、ここにきてから、なんか変化は?」


「なにも。ボクがココに辿り着いたのは、けっこう最初の方なんだけど……もう1時間前くらいかな……で、その間ずっと、何が起こるのかと不安を抱きながら、とりあえず、次の展開を待っているんだけど……どんどん人が増えていくばかりで、他は何も起こらなくて……」


「なるほど、了解。助かった、情報提供、感謝する」

「言葉だけの御礼はいらない。この先、何か協力しなきゃいけない事があったら、力を貸してほしい」


「……そのセリフ、もしかして、全員に言っとんのか?」

「うん。生き残るための可能性は少しでもあげておく。ボクは死にたくない」


「……中学生とは思えんほど肝がすわっとるな」

「君もそうじゃない? 全然あわててない。どっしりと、状況を見据えている」


「……」


「まあ、ここにいるのは、たぶん、みんなそうだと思うけど。全員、あの厄介なチュートリアルを乗り越えた人ばかりだからね。根性も頭も優れた人間ばかり。おそらく、優秀な人間が集められているんだろうね。……もしくは、『チュートリアルに挑戦した人』は一杯いて、優秀な人だけがここまで辿り着いたってパターンか……」


「……ふむ、まあ、どっちかやろうな」


 そこで、オカッパは、自身のMDデバイスをいじりながら、


「おっと……どうやら、君、あまりガチャでいいのを引けなかったみたいだね……そっちの彼女は、そこそこだけど、君の携帯ドラゴンは酷い。ほぼほぼ初期状態じゃないか。チュートリアルは、彼女のおかげでクリアできたって感じかな?」


 そうつぶやいた。


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