暁ジュリア。

暁ジュリア。


「ぁの……えと……その……」


 岡葉は、ジュリアの威圧感にたじろいで、

 ついには、トウシに助けを求める視線を送り、



「ボク、彼女に何か悪いこと言ったかな?」



 トウシは、溜息をついて、

 ジュリアに視線を送り、


「状況を考えぇよ、ジュリア……お前が男嫌いなんは知っとるけどもやなぁ、こんな状況なんやから、無意味な敵対は――」


「男嫌い? なに、そのイカれた勘違い。あたしが嫌いなのはあんただけ。他の奴の事は、好きでも嫌いでもない。どうでもいい。どこで野垂れ死のうが、どれだけ不幸になろうが、心底、どうでもいい。ほんっっとうに、全身全霊、どぉぉぉでもいい! あたしは、あんたを殺すために生きている。それだけ」


「……あ、そう。もうええ、お前、しばらく喋んな」


 そこで、トウシは、岡葉に視線を向けて、


「悪いけど、あいつ、色々あって、情緒不安定やから、関わらんようにしたってくれる?」


「……あ、うん……そうみたいだね……」



 ★



 ジュリアは、今でこそ、身長170センチ股下百センチ体重52キロの九頭身というパーフェクトスーパーモデル体型の超絶美少女だが、中一の冬までは、ただのデカいデブ。

 ルックスに多大な不具合を抱えた少女だった。


 当時は、ニキビも酷く、髪の手入れさえ怠るほど容姿に無関心だったため、周囲の心ない連中からは、『白い汚豚』・『ドリアン系ブス』・『ゴブリン突撃部隊隊長』などと散々なあだ名で呼ばれ蔑まれていた。


「汚豚、俺は、友達の気持ちが知りたいんだ。だから、お前は、今日から、俺のサッカーボールな。ボールは友達! というわけで、これから、色々と体験させてやるから、随時、感想をレポートするように。いいな」

「――工藤、お前は、だから、ダメなんだよ。もっと美しく蹴らないと、真にボールの気持ちを理解させる事はできないんだよ。ほら、こんなふうに」

「うわ、吐いた。おいこら、武藤。レバーにぶち込んでんじゃねぇよ。あーあー、もう、クツにかかっちゃったよ。ほら、汚豚、はやく、なめて、なめて」


 性格は今とさほど変わらないが、しかし、幼さゆえに、現実に即した知識が乏しかった。

 小学校を卒業したばかりの、勉強しかしてこなかった世間知らず。


 だから、正しい抵抗ができなかった。

 「イタイ」「ヤメロ」そんな事を口にしたところで、迫害の手が止まることはない。

 むしろ激化する。


 その地獄の行きつく先は、いつだって、


『キサマらのスベテをオワラせてやる』


 自殺か虐殺の二択。

 彼女が選んだのはその両方。


 ただ彼女ほど本気で『その二つを完遂させようとした者』は少ないだろう。



(明日、終わらせる。どんなことがあろうと、少なくとも、工藤だけは絶対に終わらせる。あえて数日前から使っている、この無駄に大きなサイズのリュックサックなら、チェーンソーだって、バレずに持ち込める。明日、あいつらは終わる)



 彼女の計画は完璧だった。なによりも完璧だったのは決意。

 ――復讐後に自殺する覚悟。

 『死ぬ気』で臨めば、女子中学生でも、男子中学生の五・六人を殺す程度は朝飯前。


(チェーンソーの刃を首にあてる。それを五回ほど繰り返すだけの簡単なお仕事)


 頭の中で念入りにリハーサルをした。

 チェーンソーの使い方も入念にチェックした。


 問題はなにもない。

 そう思っていた。


 ――起こった問題はひとつだけ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る