神様になれる器。

神様になれる器。



(携帯ドラゴンの力に頼りっきりっていうんじゃ情けないから、俺自身も鍛えたいな……いつか、携帯ドラゴンくらい強くなって……最強タッグ的な……それで、『無敵の龍神』を名乗るみたいな……『究極の龍を使役している最強の龍騎士』……いいねぇ……サイズ的に、ちょっと騎乗は無理だから、騎士じゃなく、召喚士的な感じだろうけど……まあ、その辺の名称はおいおい考えていくってことで……)


 などと考えていると、そこで、扉がガチャっと開いて、


「あれ、ピーツ……いつ帰ったんだ?」


 ルームメイトで二年生のマークが入ってきて、そう言った。


 間髪いれずにピーツは、


「ついさっきです」


 と、丁寧に答える。

 マークは、ピーツに対して、ルームメイトとして、それなりに『普通(別に良い先輩というわけではないが、悪い先輩でもない)』に接してくれている、きわめて普通の先輩。

 なので、ピーツも、彼に対しては、最低限の敬意を払う。


「ちょっと図書館で寝てまして……」


 というピーツの返答を聞くと、マークは、親指で扉の向こうを指さしながら、


「ババア(寮長)がキレてたぞ」


「は? なんで……ですか?」


「今日のトイレ掃除、お前だろ? 『サボりやがったな、あのガキ』って、めっちゃキレてたぞ。ウゼェから謝ってこい」


 言いながら、梯子(はしご)を上って、上のベッドに寝転がるマーク。


 マークの言葉を受けたピーツは、頭を抱えて、



「うぉおお……完全に忘れてた……だりぃ……」



 一度深いため息をついてから、重い腰をあげる。


 と、そこで、ピーツは、

 『トイレ掃除をしなかったという理由で、今からオバハンに怒られにいく自分』に対して、


(神様になれる器じゃねぇなぁ……)


 なんて事を思った。




 ★




 この日行われる『龍試』の内容は、大学校とフーマー東方の境にある『クア森林』で『モンスターを狩ること』と、かなりシンプル。

 概要はシンプルだが、その内容は激烈。


 クア森林は、フーマー島の中でも、最高位のモンスターがウジャウジャしている大森林で、奥に行けばいくほど高ランクのモンスターが出てくる魔窟。

 最深部になると、存在値30を超えているバケモノもゴロゴロ出てくるという危険な森。


 何百年に一回という割合ではあるものの、存在値100近い『古龍』が沸いて暴れる事もあるという、常軌を逸してヤバい大森林。


 強いモンスターが出現するというだけではなく、ヤバいダンジョンのように、高位の罠が自動発生する事でも有名。

 常に高レベルの次元ロックがかかっていて、転移等で逃げかえることも出来ないという厄介なオマケつき。

 危険度がハンパではないため、狩り場としては使えない危険地帯。

 当たり前だが、基本的には立ち入り禁止。

 上の許可が下りないと足を踏み入れる事すら出来ない。



 そんな森で試験が行われるという、この異常。



(頭おかしいな、この学校……)



 集合場所であるクア森林近くまでやってきたピーツは、

 あらためて、自分が通っている学校の異常性を再認識した。



(こんなヤバい森の奥深くまで入って、よりランクの高いモンスターを狩った上位5名が合格。成果が無かったもの、もしくは、存在値20以下のモンスターしか狩れなかった者は退学……)



 退学の基準は、そこまで高いワケではない――と素人なら勘違いする。

 それは、間違いである。

 ランク20以上のモンスターは、まあまあ深くまで入らないと狩ることができない(近場でも出てくることはあるが、確定でランク20のモンスターとエンカウトしようと思うと、ある程度、深くまで進む必要がある)。


 『アホほど自動生成される罠』をかいくぐり、大量の、『厄介なモンスター(クア森林では、デバフをふりまいてくる系が多いので、存在値が低いモンスターも油断ならない)』を処理しつつ、奥へ、奥へと入り、どうにか、存在値20以上のモンスターを狩って、そこから、元の場所まで帰らなければいけない。


 それが、今回の龍試の最低限!!

 頭、おかしい!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る