未来予想図。

未来予想図。


「別に、今の龍試は、『龍を殺せるかどうか』を試すワケじゃないが、ふっかけられるのは、『龍に挑む級』のイカれた難易度だ」


 ボーレの話を聞いて、ピーツは言う。


「その危険性は当然ハンパじゃなく、最低限の実力すら持たない者は、そのヤバさに飲み込まれて死んでしまう、と」


「そういうこと」


「ふむふむ」


「その顔……お前、完全に受ける気だな」


「……まあね」


「俺は、ちゃんと忠告したからな。先輩としての責務は果たした。受けるのはいいけど、受けた先で死にかけた時、『あの時、なんでもっと強く止めてくれなかった』とか言うなよ」


「言わねぇよ」


「……一年生で一発型の龍試を突破したやつとか、勇者しかいないんだが……まあ、いいや、もう、どうでもいい。好きにしてくれ。いっそのこと、フーマー大学校の歴史上、もっともバカな男として、伝説になっちまえ」


「運だけで学校に入り、ぶっちぎり成績最下位を取り、無謀にも龍試に挑んで爆死した狂気のバカ学生……確かに、そこまでいけば伝説になりそうだな」


「アホ神として、永遠に語り継がれるだろう。『こうはなりませんように』と、全員から拝まれながら」




 ★




 寮に帰ったピーツは、

 小汚い自室に入るとすぐ、二段ベッドの下に腰をかけ、


(さて……とりあえず、明日、龍試を受ける訳だが……ぶっちゃけ、こいつの力があったら、楽勝だよなぁ……)


 頭で寝ている携帯ドラゴンの首をつまんで、自分の膝に乗せるピーツ。

 ソっと頭をなでると、


「きゅあ~」


 と、気持ちよさそうにゴロゴロとのどをならした。


(携帯ドラゴン……コレは、マジでなんなんだろうな……ケタ違いの魔力にオーラ……ぶっちゃけ、こいつ一匹で世界征服できそうなんだが……)


 『常識』しか知らないピーツは、

 携帯ドラゴンの力があれば、世界を狙えると本気で思う。


(世界最強って言われていた勇者は死んだ……悪の宰相ラムドは存在値100くらい……この世界最大の覇権国家『精霊国フーマー』の上層部が、惜しみなく力を結集させれば、ラムド以上の強さも発揮できるみたいだけど……それだって、たぶん、たかが知れている。存在値換算で言えば、総戦力で500とかが精々だろ……)


 フーマーの暗部に、とんでもない組織がある――という事は、フーマー大学校に通う者なら誰でも知っている事だが、『それ』が、どのぐらいの力を持った組織なのか、精霊国フーマーに属する者であっても、階級が『庶民』ならば、知っている者はほとんどいない。


 シグナルズやピースメイカーという組織の『名前ぐらい』なら聞いたことはあるが、

 『誰が在籍しているか』とか『実際にどのようなことができるのか』等は知らないし、

 『天国』に関する情報に至っては、その名前だけでも、一部の有力者でなければ知り得ない。



(携帯ドラゴンは、存在値1500をボコボコにできる最強のドラゴン……それが、俺のペットみたいなもの……おいおい、これ、もはや、ほとんど、『世界は俺のもの』みたいなもんだろ……王様になることも、ハーレムをつくることも余裕……余裕……だが……)


 と、そこで、ピーツは天を仰ぎ、


(……ハーレムつくりたいか? いや、『好きでもない女』に周りをウロチョロされても、ウザったいだけだな。……王様も同じ。要するには学級委員長の親玉じゃねぇか。やりたかねぇよ、そんなもん。支配者なんてガラじゃねぇ。……そんなんじゃなくて、もっと、こう……おもしれぇこと……)


 携帯ドラゴンの力は異常。

 携帯ドラゴンの力さえあれば、なんだって出来る。

 『現時点でも想像できる程度の現実的な夢』だけではなく、『認知外にある次元乖離した野望』だってかなえられる可能性はある。


(せっかくの異世界転生……せっかくのスーパーチート……何か、面白い事がしたいな。ラムドを倒すっていうのは、まあ、サクっとやっておくけど……それ以外にも、何か……でっかいこと……)


 そこで、ピーツは思う。


(神になる……っていうのも、面白いかもしれないな。責任のある大神ではなく、『戦いの神』的な……あのソルとかいう謎の声の主を倒して……いや、まあ、別に倒さなくてもいいや。悪い事とかされてねぇし。むしろ、感謝しねぇといけない。……というわけで、とりあえず、『俺を召喚した神様』と並ぶか、上に立つかして……で、全世界で最も強い闘神になって……で、そうなったとしても、まだまだ、もっと、もっと、携帯ドラゴンを強くして……で、いつしか、新しい世界を創造しちゃったりなんかしちゃったりして……で、そこに、俺と同じように日本人を召喚したり……チートを与えたり……)


 夢が膨らんでいく。

 やりたい事が、どんどん膨らんでいく。




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