孵化。

孵化。



 卵が割れて、中から、




「きゅいっ!」




 と、かわいらしい鳴き声を出す小さな龍が出現した。

 手乗りサイズで二頭身の愛らしい龍。

 モッフモフの子猫を凌駕する可愛さ。



 その『手乗りサイズのドラゴン』は、背中から生やしている小さな翼をパタパタさせて宙を舞うと、ピーツの頭の上にポスンと着地して、猫のようにクルンとまるまり、


「すーすー」


 と、寝始めた。



「……どうなってんだよ……」


 謎の状況に戸惑っていると、さらに、


「ん?」


 割れた殻が、手の中でもぞもぞと動いていた。


「うわ、きもっ」


 うごめいている殻は、やがて、長方形のてのひらサイズになって、実体化していき、

 そして、


「……スマ……ホ……?」


 ほぼ完全なスマホになった。

 ※ これは『MDデバイス』と呼ばれる、『携帯ドラゴンのマスター専用』の特殊なマジックアイテム。


 ピーツは、眉間にしわを寄せながらも、

 そのスマホ(MDデバイス)の画面をススっといじってみる。

 すると、

 メニューには、アプリが一つだけあって、


「……携帯ドラゴン……」


 一つだけ表示されるソフトウェア。

 それは、『携帯ドラゴン』という名称のアプリだった。


 実は、ピーツは、そのアプリのことを、


「携帯ドラゴンって……あの、携帯ドラゴンか……?」


 良く知っていた。


 携帯ドラゴン。

 それは、センエースが第一アルファで唯一ハマった携帯ゲームだった。


 課金こそしなかったが、かなりノメり込んで、

 ずいぶんな長期間、石を溜めて、盛大にガチャをまわし、

 そして、豪快に爆死して引退したという黒い歴史をもつスマホゲー。


 ピーツは、頭部で寝ている小さな龍の首裏を、

 まるで猫のようにつまんで、目の前まで持ってきて、まじまじと見て、



「確かに……初期状態の携帯ドラゴンっぽいけど……」



「くぁあ~」



 と、小さく愛らしくアクビをする携帯ドラゴン。


 ピーツは、その子を、とりあえず、いったん、頭の上に戻してから、

 MDデバイス(スマホ型のマジックアイテム)のアプリ内容を確認する。

 だいたいは、スマホゲーの時と同じで、


「ここで、所有している携帯ドラゴンのステータスを確認できます……と。ほぼ同じだな」


 ステータス確認を選択してみると、




000000000000000000000000000000000000000


 登録名 『??』

 型番  『IS=GPQC/タイプD95775‐GX9』


 《強化値》    【1%】

 《容量》     【200】


 [HP]     【1%】

 [MP]     【1%】


 「攻撃力」    【2%】

 「魔法攻撃力」  【1%】

 「防御力」    【1%】

 「魔法防御力」  【1%】

 「敏捷性」    【1%】

 「耐性値」    【1%】



 111111111111111111111111111111111111111




 ステータスを確認したピーツは、


「……見事に初期能力。……『俺がやっていたセーブデータが適用される』とかではないんだな。『スマホゲーのセーブデータが異世界でも適用される系』のネット小説は多いから、少し期待したんだが……」


 ピーツの頭で寝ている携帯ドラゴンは、何も出来ない完全初期状態。

 ゲーム開始直後の能力。


「まあ、初期状態でも充分に強いという可能性もなくはないが……というか、こいつは、戦闘で使える系のアレなのか? それすらも今のところはサッパリだな……」


 ステ確認以外にも、いろいろとアプリをさわってみるピーツ。


「どうやら、ガチャも使えるみたいだが……どうやってポイントを得ればいいんだ?」


 『MDP』という『石(ポイント)』を溜めると回せるのだが、

 そのポイントの取得の方法がさっぱりわからない。

 このアプリは、本来のスマホゲーと違い、

 スマホ内でゲームプレイというのは出来なかった。


 現状だと、『ステ確認』と『ガチャがまわせる』という二つの機能しかない。



「課金か? 課金しかない感じか? よーし、じゃあ、コンビニでアイチ〇ーンカードを……って、コンビニなんかあってたまるか、ボケ! 異世界ナメんな!」




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