亜サイゾー。

亜サイゾー。


「課金か? 課金しかない感じか? よーし、じゃあ、コンビニでアイ〇ューンカードを……って、コンビニなんかあってたまるか、ボケ! 異世界ナメんな!」


 適当に独りでハシャいでから、


「さて……どうしたものかな……」


 などと悩んでいると、


 ビービーッッ!!


 と、どこからか、警戒音が響いた。


「え、え、なに、なに?! 俺、なにもしてませんよ!」


 ピーツが小さくなってビクっとしていると、


「……ん?」


 この空間の中央に、何やら虹色のモヤモヤがあらわれた。

 そのモヤモヤは、次第に形になっていき、

 最終的には、屈強な魔人の姿になった。


 その魔人は、ピーツを睨みつけ、


「ここは、サイコゾーン・サンクチュアリの亜種ともいうべき、神の空間」


 とうとうと、

 事務的に、


「そして、私は、この『空間のAI部分』にして『携帯ドラゴンの管理人』……呼ぶ時は『亜サイゾー』でいい」


「……はぁ……そうすか……こんにちは」


「――『その携帯ドラゴンの所有者である』と『正式に認められるため』に必須なのは、私を倒すこと。ただし、私の存在値は53万。君では到底勝てない」


「……そりゃ、勝てんだろうなぁ。そんな宇宙の帝王みたいな強さを持っているヤツには」


「勝つ方法を模索してみろ。なければ死ぬ。単純な話」


 言って、ゆっくりと近づいてくる亜サイゾー。

 亜サイゾーの接近を受けてか、

 ふいに、ピーツの頭頂部で寝ていた携帯ドラゴンが、パチっと目をさまし、


「きしゃぁ!」


 飛びあがって、亜サイゾーを威嚇する。

 その勇敢な姿を見たピーツは、


「おお! やる気まんまんだな! 頼もしいぞ! かわいいは正義だということを! そして、正義は勝つということを教えてやれ!」


 携帯ドラゴンは、


「きゅい!!」


 意気揚々と、

 亜サイゾーに突っ込んでいった。


 そして、


「うるさい」


 ペシンと弾かれて、


「……きゅいぃ……」


 情けない声を出しながら戻ってきて、

 ピーツの頭の上で丸くなり、粛々と回復に精を出し始めた。


「なにしに行ったんだ、お前! どっかのギャグ担当アフロみたいなやられ方しやがって! ていうか、めちゃくちゃ、よわいな、おい! いや、初期状態でフ○ーザ様に勝てって方が無茶だけれども!」


「言うまでもないが、逃げ道はない。私を倒す方法を必死になって考えろ。そうでなければお前は死ぬ」


「考えろっつったって! どうしろってんだ?! 俺は、ランク1魔法の一つも使えない、フーマー大学校の劣等生だぞ! へたしたら、銃を持っていないオッサンより弱いかもしれないドストレートなカス野郎だぞ! いくら考えたところで、悪のカリスマに勝てる訳ないだろ!」


「お前の事情に興味はない。私を倒せば、貴様は、その携帯ドラゴンの正式な親になる。私に勝てなければここで死ぬ。それだけの話だ」


「ふざけんじゃねぇぞ、ちくしょう! せっかく、念願だった異世界にこられたってのに、こんな初日の夕方にサクっと死ぬなんて……冗談じゃねぇ!」


 そこで、ピーツは、頭をかきむしりながら、


「なにか! 方法! いや、方法っつってもなぁ! アイテムも何もねぇし! スキルはゼロだし! うぉおおお! 完全に詰んでるぅうう!」


「喚くだけではなく、行動をおこせ。そして、見事、私を倒してみせろ」


「ムチャ言いやがって……お前、できんのか? 俺のスペックで、お前に勝てんのか? 自分にできないことを人にやれってのは、そりゃ、理不尽ってなもので……ん、ちょっと待てよ」


 そこで、ピーツは思う。


「もしかして、携帯ドラゴンが異常に弱いだけで……あの亜サイゾーってやつも、本当は別に『そこまで強くない』って可能性も……」


 ピンと閃く。

 打開策というより視点の変更。


「そうだよな……存在値53万なんてありえねぇもんな……完全にハッタリ……つまり、これは『その部分に気付けるかどうか』という単純なテスト! そうだろ?!」


「どう思おうと自由。私を倒せば、貴様は、その携帯ドラゴンの正式な親になる。私に勝てなければここで死ぬ。それだけの話だ」



「ゲームキャラみてぇに、同じことを連呼しやがって……ハリボテ野郎が……」



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