ガッ

ガッ



 その文字盤には、こう書かれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 1 :仕様書不明さん :00/00/00 00:17

  ∧__∧ **  

 ( ´∀`)< ぬるぽ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 それ見たピーツは、つい反射的に、

 その文字盤を殴りながら、



「……ガッ」


 そう呟いてしまった。


「ピーツ?! ちょっ、おい、どうした、急に! 情緒不安定か?!」


 ピーツの奇行にびっくりして、そう叫ぶボーレ。


 しかし、そこで、ピンポーンと音がして、

 グゴゴゴゴと大きな音をたてて扉が開いた。


「……ナメてんなぁ」


 ボソっとそうつぶやいたピーツに、

 ボーレは、


「いくら、暗号の難易度が高いからってヤケをおこすな。俺もさっきは大分動揺してしまったワケだが、お前の奇行を見て逆に冷静になれたよ。うん、逆によかった。慌てる後輩、なだめる先輩。俺達は意外と良いコンビかもしれない。よし、というわけで、まずは、この暗号を解くためのヒントがないか探してみよう」


「……は?」


「ん、どうした?」


「扉なら開いただろ」


「……ピーツ後輩。ほんとうに、どうした、大丈夫か?」


 ガチで心配そうな顔をしているボーレ。

 そこに違和感を覚えたピーツは、


「一個、質問をする。ちゃんと答えてくれ、ボーレ先輩」


「お、おう……どうした、ピーツ後輩」


「今、扉は、しまっている。そうだな?」


「まあ、そうだな。開いていたら、とっくに中へと入っているワケだからなぁ」


「……」


 そこで、ピーツは扉に視線を向けてみた。


(間違いなく開いている……)


 扉は開いていて、

 中から淡い光が漏れている。

 光が邪魔で、奥は見えなかったが、確かに……


(……まさか、『開いたように見えている』のは俺だけか? なんだ、それ……どういう状況だ……)


 数秒、考えてみて、


(もしかして、暗号を解いた者しか『中に入る事が出来ない』のはもちろん、『扉が開いたと感じる事』さえもできない、とか? ……うーむ……)


「妙な事を言っていないで、お前もヒントを探せよ」


 そう言って、ボーレは、この空間のあちこちを探しだす。

 その背中を横目に、

 ピーツは、


(……行ってみるか……)


 心の中でボソっとそう呟いてから、


「ふぅ~」


 と、一度深呼吸をして、

 扉の奥へと足を踏み進めた。


 慎重に、おそるおそる、まっすぐに、

 先の見えない奥へ、奥へと進んでいく。

 淡い光に包まれた謎の通路。

 『光っている』という事以外、なにも認識できない妙な道。


 そんな通路を10秒ほどまっすぐ進むと、そこで、


「……ん」


 光が落ちついている空間があった。

 先ほどの『扉があった空間』よりもさらに大きい。

 そして、その空間のど真ん中には『精巧な装飾が施されている台座』があって、

 その台座には、なにやら、卵のようなものが置いてあった。

 ハンドボールくらいのサイズで、色は真っ白。



「……なにもかもが珍妙だねぇ……」



 周囲をうかがいながら、ピーツは、その台座の方へ、まっすぐに歩を進める。

 そして、台座の前までくると、


「金銀財宝でも、アイテムでもなく……『卵』、ねぇ……うーむ……」


 どうしたものかと、一瞬だけ悩んだが、


「まあ、とりあえず……」


 ボソっとそう言いながら、その卵を手にとってみた。

 軽い。

 まるで、中身なんてないみたい。


 と、

 その直後、



 バタァン!



 と、扉がしまる音が響いた。


「?!」


 驚いて振り返ると、扉に続いていた『淡い光の道』がなくなっていた。


「ちょ……ええ……」


 戸惑っていると、

 今度は、ピキピキっと音がして、



「おいおい……次から次へと……」



 卵が割れて、中から――

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