高次の回復魔法。

高次の回復魔法。


 世界を乱す時限爆弾『ゴート・ラムド・セノワール』を睨みつけながら、

 ワイルは、



「さあ、ラムド。俺を従わせたかったら、剣(けん)で俺をねじふせろ。もし、お前が、俺の道の『先』にいるのなら、俺はお前の剣(つるぎ)になろう!」



「わかった」


 言って、ラムドは、ワイルの目の前まで歩く。

 そして、


「腕は治してやる。『片腕だったから、負けた』みたいな、そういうふざけたイチャモンつけられたくないからなぁ」


「侮辱するな。そんなふざけた事を言う訳がないだろう!」


 真剣にキレているワイルに、

 ラムドは辛らつに、


「お前の言うことは信用しない。それに値しない。現状における、お前という存在の、俺の中での信頼度はゼロ以下だ」


 そう言いながら、ゴートは、ワイルの腕をサクっと治す。

 高ランクの回復魔法。

 それは、一国に一人くらいしか使い手がいない高次魔法。


 ゴートの見事な手際を見て、

 ワイルは、


「お前が高位の回復アイテムを持っているという話は、サリエリから聞いていたが……今のはアイテムを使ったのか? 普通に魔法を使ったように見えたが」


「普通に魔法を使ったように見えたなら、たぶん、普通に魔法を使ったんだろうぜ」


「……」


 これに関しては、少し離れた場所で見ているサリエリも瞠目し、ポカンと口を開いていた。


 サリエリは思う。


(あれも嘘だったか……お前は、ほんとうに嘘だらけだな、ラムド)


 さらにゴートを理解したサリエリは、しかし、ゴートに対して不快感を覚えなかった。

 『徹底している』という印象しか抱かなかった。


 その向こうで、ゴートと対峙しているワイルは、わずかに、冷や汗を滲ませ、


(ここまで見事な回復魔法まで使えるとは……この男はいったい……)


 ラムドの事は『凄い男』だと理解している。

 『強い召喚獣』を『何体も召喚する事が出来る』という能力を、無力だとは思わない。

 というか、一応、『とてつもなく偉大な力だ』と理解している。


 ワイルはただのバカじゃない。

 ちゃんと考えて生きているバカ。

 バカはバカでも思考出来ないバカじゃない。


 ――ワイルは、ただ『剣』しか認めたくないだけ。

 そこ以外に重きを置きたくないという、ただのワガママ。

 強さというもののランクは、剣で決めたいという、ただのこだわり。


 だから、分かっている。

 ラムドの強さ。

 なんでもありのルールで、ラムドとまともに闘えば、自分は絶対に勝てないと理解している。

 そして、おそらく、この底が知れないバケモノは、剣でも自分を超えているだろう。

 それまでの人生で、散々っぱら、『剣』だけにこだわってきたから分かる。


 さきほどの、腕を切り飛ばされた一太刀だけで充分に理解できた。


 ラムドの強さは、剣でも、ワイルを遥かに超えている。

 わかっている。

 そんなこと。


 しかし、だからこそ、ここでは立ち向かわなければいけない。


 ワイルはそうやって生きてきた。


 ゴートは言う。


「ワイル、行くぞ」


「ああ。ラムド、お前の全部を俺に見せろ」


 そう言って、切りかかってきたワイル。

 そんなワイルを、



 ――ラムドは、威圧する。




「っっっっっっ?!!」




 他の連中には、余波が届くだけに留め、

 ワイルに対してだけ、殺気が『身の芯』まで届くように調節する。

 剣の切っ先をワイルの視点に合わせ、『己の未来』を明確に想像させる。



「ひっ……ヒィイイイイッッ!」



 壊れないように、砕けないように、ギリギリまで調節しながら、

 ラムドは、殺気だけでワイルを絶望させる。

 ワイルの脳内は、『無限に切り刻まれる自分』のイメージで埋め尽くされる。


「いいいいいいいいぃいぃぃいいいっっ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る