剣の道。

剣の道。


「……『味方に損害を出すヤツ』の事は誰も信用しない。……つまり、そんなヤツを将軍の地位には置いておけないってことだ」


 言いながら、ゴートは、ワイルを睨みつけ、


「命令系統の乱れは軍全体の損失につながる大事。まだ理解できないようなら、お前を殺し、理解できるヤツを後釜につかせる。……おいこら、いつまで痛がっていやがる。軍人が腕をなくしたくらいでピーピーいうな。上官が問いかけてんだ。さっさと返事をしろ」


 威圧的なゴートの言葉を受けて、

 ワイルは、ギリっと奥歯をかみしめてから、


「見えなかった……」


 ボソっとそう言う。

 小さな声。

 だが、ゴートの耳には届いた。

 だから、



「あん?」



 ゴートは、さらに威圧的になって詰め寄った。

 不愉快ぶりを隠そうともしないゴートに、

 ワイルは言う。


「お前の太刀筋……まったく見えなかった……」


「だからなんだ?」


「ラムド、お前は……召喚術が得意なだけで、剣は使えないんじゃなかったのか……」


 まだタメ口は続いているが、ここでのソレは、ここまでのソレとは『意味合い・色調(ニュアンス)が違う』と解釈したゴートは、


「うぜぇ口調が直ってねぇが……まあ、少しだけ、我慢して話を聞いてやる。で、だから、なんだ?」


「俺は俺より強い奴にしか従わねぇ。陛下は俺よりも遥かに強かった。だから、俺は、『魔王軍の将』の任を受けた……」


「知っている。俺はお前の上司だからな。――で?」




「……剣で一騎討ちだ。ラムド」




 言いながら、ワイルは、残っている腕で剣を抜いた。

 キラリと光る銀。

 もう後には引けない覚悟の色。


「……なんで、お前が俺に命令してんだ……」


 ゴートは、その表情へ、さらに濃密な怒りを投入し、


「しかも『条件付きで闘え』とかふざけた事を。このバカが。従う必要ないね……と言いたいところだが、この一回に限り、他の連中が見ている『ここ』でなら……やってやるよ」



「望むとこだ!」



 鼻息荒く叫んだワイル。

 そこで、リーンが、


「ラムド、待っ――」


 ワイルの身を心配して止めようとした――が、

 しかし、当のワイルが、


「陛下! 口を出さないでもらいたい! これは俺とラムドの問題だ!!」


 プライドを叫んだ。

 軍人の誇りは重たい。

 彼の王であるリーンは、ワイルの誇りを無碍にはできない。

 この問題に関する『これ以上の踏み込み』は、ワイルに対する明確な侮辱。

 つまりは、許されないこと!

 やってはならぬ禁忌!


 黙ったリーンから視線をはずしたワイルは、

 そこで、あらためて、ゴートを睨みつける。


 ワイルは理解している。

 これから誰を相手にするのか。


 ワイルがこれから闘う相手は、世界最強の勇者を殺した牙。

 つまりは、まぎれもない世界最強。

 魔王軍の宰相にして、世界の支配構造再編を目論む、狂気のマッド召喚士。


「お前の召喚獣が強い事はしっている。だが、俺は、それを、『力』とは認めない」

「アホな意見だ。しかし、一応、なぜだと問いかけてやる」


「俺の道は、剣の道だからだ」

「意味不明……だが、なぜか理解できた。ようするに、『ユーチュブで稼ぐことを労働とは認めない』みたいなもんだろ。しょうもないこだわりだ」


「? ゆーちゅ……何を言っているかわからないんだが」

「理解させようと思っていないからな。当然だ」

「……?」


「お前のこだわり、無意味とは言わないさ。大事なものだ。捨てろとは言わない。受け入れろとも言わない。――お前は、ただ、俺を知ればいい。剣の道しか認めないというのなら、俺の剣を見せてやる」

「いい覚悟だ。もし、お前の実力が、その自信の通りなら、お前は俺の王にふさわしい」


「王はリーンだ。俺じゃない」



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