モンジン。

モンジン。



 バロールとジャミが呑気に会話をしていると、スタジアム中に声が響いた。


『それでは、これより予選を開始する。まずは、1番から50番まで、武舞台にあがれ』


 アナウンスを受けて、指定された番号札をつけている50人が巨大なリングの上に上がった。


 100メートル×100メートルほどの大きな武舞台。

 大きさのイメージ的にはプロのサッカーコートくらい。


『明らかな故意でなければ、相手を殺害したとしても失格にはしない。ただし、既に動けなくなった者に対しての無意味な暴行などは――』


 その後、いくつかの注意事項などがアナウンスされ、

 重厚な笛が鳴り響くと、舞台に上がった50人は、一斉に戦闘を開始した。


 その様子を、舞台の外で観戦しているバロールが、ジャミに向けて言う。


「30分後に立っていた5名は本戦に出場。30分以内に『立っている者』を五人以下に減らせなければ全員失格。すでに本戦参加が決まっているシードは10名。シードの10名と、予選から上がってくる最大30名とでトーナメントを行う。それが、この仮面武道会の概要。なにかご意見・ご質問等は?」


「……テイストだけなら、天下の『武神総選』と少し似ているな」


 『愚連の上位』と『楽連の下位』を入れ替える、ゼノリカの公式武道大会。

 それが、武神総選。


「規模と参加者のレベルが、あまりに違いすぎるけどなぁ」


 武神総選は、第2~第9アルファで最も大きな武道大会なので、こんなエックス級の一国家が開催する大会とは、当然、全てにおいて格が違う。


 ――舞台の上で闘っている50名を見ながら、ジャミが、


「で? 私達は、『どの程度』勝てばいいんだ?」


「とりあえず、予選は、秒で全員吹っ飛ばす。フーマーの使徒どもが、『おお、なかなか強いじゃないか。まあ、ウチの主力には劣るが』と思う程度が理想」


「となると……存在値70程度の力を見せる感じか?」


「まあ、そんなところだな。で、本戦は――」


 そんな会話をしていると、後方から、




「おい、そこの二人。281番と282番」




 声をかけられ、バロール(281番)とジャミ(282番)が振り返ると、

 そこには、17歳ぐらいに見える青年(仮面をかぶっているので、顔つきはハッキリとはわからないが、体躯的に)が立っていて、


「俺と組もうぜ」


 などと言ってきた。

 ジャミとバロールは、そろって、


「「……?」」


 と、心に抱いた疑問符を表情筋で表現する。


 そんな二人に、青年は続けて、


「俺は250番のモンジン。お前らと予選で闘う事になる者だ」


「「……」」


 バロールとジャミは、モンジンの戦力を確認する。

 存在値17ちょっと。

 今大会に参加している300人の中で、ほぼ最下位といっていいレベル。

 ようするに、ほぼ確実に予選で落ちるであろうザコ。

 仮に運よく本戦に出られたとしても一回戦負け確実な弱者。


 そんなゴミが、ジャミとバロールに対し、意気揚々と、


「俺の強さは究極の向こう側に達している。全宇宙をワンパンする事だって不可能じゃない。だから、予選ごとき、間違いなく突破できるんだが、確率は上げるにこしたことはない。そこで、そこそこ強そうなお前らに声をかけたってワケだ。というわけで、俺と組もうぜ」


「「……」」


 『また、ずいぶんなアホにからまれた。さて、どうしたものか』とでもいいたげな顔をしている二人に対し、モンジンが、


「おい、シカトするんじゃねぇよ。ちゃんと返事をしなさい、返事を。お前ら、上位者に対する態度がなっとらんな。まったく、どんな教育を受けてきたんだか……言っておくけど、俺がその気になったら、お前らなんかワンパンだぞ。俺がお前らを殺すのにかかる時間は、どんなに長く見積もっても1秒に届かない――俺はそういう次元をさまよっている、真に孤高の旅人なのだ。どうだ、すごかろう? カッコよかろう? 崇め奉ってもよろしくってよ」


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