エキドナール・ドナ

エキドナール・ドナ


 モナルッポとキッツを拘束して投獄した直後、

 UV9は、レイモンドの事務所に設置されている執務室に足を運んだ。


 部屋にたどりつき、扉を開けて中にはいると、

 妖艶な美女がソファーに腰かけて、優雅にキセルをふいていた。


 UV9は片膝をついて、


「ドナ様。モナルッポの処理が完了しました」


 UV9が敬意を示す彼女は、UV9の大先輩。

 UV9たちのような『天下』に属する超越者たちが渇望している『栄光の席』を勝ち取った超越者の中の超越者。

 栄えあるゼノリカの天上、九華十傑の第十席・序列三位『エキドナール・ドナ』。


 見た目は30代の艶やかな女性。

 目が切り傷のように細く、量のある黒髪を夜会巻きにしている美魔女。

 『ヤバそうな魔女感』と『滲み出る威厳』がハンパないドナは、偉人オーラを垂れ流しにしたまま、UV9に視線を向けることなく、


「あの小僧(モナルッポ)……案外、使えそうであったな」


「同感です。事が済んだら、愚連に入隊させようかと考えております」


「よきにはからえ」


「はっ」


 恭(うやうや)しく返事をするUV9に、チラっとだけ視線を向けて、ドナは言う。


「それで? あの小僧は、いつ逃がす?」


「フーマーが動いてから――が適切かと存じます。仮面武道会が終わりしだい、フーマーが間者を送ってくるかと思われますので、その際に、少し演出を加えて、共に逃がそうかと。そのほうが、うまく情報をコントロールできるのではないかと愚考いたします」


「ふむ……まあ、任せよう。ぬしならば、うまくやるであろうから」


「もったいない御言葉、恐悦至極に存じまする」






 ★



 仮面武道会の本戦は午後からだが、『予選』は、早朝から行われる。

 朝の澄んだ空気など、このスタジアム内では皆無。

 重たいゴリゴリの殺気で包まれていた。

 

 興業が目的ではないので、さほど外観が派手に装飾されているわけではないが、

 客を沸かせる要素は満点なので、それなりに、特有の熱と活気に包まれてはいる。

 参加者の重たい空気とは反比例して、客席は大いに盛り上がっていた(一般人は入場できないが、各国から有力者が集まり、その御付なども観戦するため、それなりの数が客席を埋めている)。



 その異質な空気感に触れながら、

 バロールが、


「参加者の数は300人程度。半分は闇に属する者。で、半分は、『中位の冒険者』か『トーンの上層部に自分の武を売り込みにきた一般人』……はっ。なるほど。殺気で満ちているわけだ」


 事前に配布された資料の内容を思い出しながらそうつぶやいたのを耳にして、

 ジャミが、


「確か、この大会は、貴族や王族等の『手持ち』のお披露目としての役割が大きい大会だが、新たな人材の発掘・選別も目的の一つ……だったな」


「それが?」


「冒険者試験の真っ最中にやることではないような気がしてな」


「いつもは、冒険者試験のあとに行われるらしいが……今年は、魔王国との戦争がひかえているからな」


 ザックリとした説明しか受けていないジャミに、バロールが丁寧に、


「はやめに、もろもろ確認しておこうって話になったらしい。トーンに忍ばせている百済の報告だと、トーン国家主席のカバノンから『使えそうなやつは、かたっぱしから引き込んで戦争の弾にしろ』とのお達しが出たらしいぜ」


 ラムドとの一件以降、カバノンは、精力的にトーンの軍事力拡大に勤しんでいた。

 魔王国を殺すためなら、なんでもするというオーラを纏って邁進するカバノンに、周囲の者は若干引いているくらい。


「いつもは、かなり選別するって点から鑑みるに……今回の武道会で引き込んだ新人のことは、戦争で使い潰す気まんまんだと思われる。さながら、戦争が最終面接になるって感じかな」


「……程度の低い国だな」


「ゼノリカを抱かない国なんて、そんなもんだろう」


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