六大国家
六大国家
セファイル王国は、北大陸の西端かつ南端にある、世界地図上では、北大陸のはじっこからピョコンと飛び出た、ほとんど『世界のオマケ』にしか見えない小さな国。
人口、世界最少。
面積、世界最小。
――千年ほど昔。北大陸のあちこちで国が出来た。
『魔物が大量に生息している南大陸』が、『人類』から『魔界』や『地獄』と呼ばれ忌避されていた(今も大半の人間は南大陸を魔の巣窟だと認識している)、
そんな、かつて、
北大陸では、毎日のように、死体が量産され、ゴミよりも手荒く焼かれていた。
当時の『魔界』サイドから言わせれば、毎日のように嬉々として同種を殺しまくっていた北の方が、よっぽど、地獄に見えたという。
必ず、毎日、どこかで、どこかの国が、どこかの国と戦争している。
そんな大戦国時代。
その時代を乗り越えた国が三つ(内一つは、そもそも戦争に参加していないので乗り越えたとは言わないが)ある。
一つは、五年前、『魔王国主導の下に発足した連合軍』によって滅ぼされた『カル大帝国』。
大戦国時代の覇者であり、腐りきって、ついには、モンスターに討伐された国。
一つは、精霊国フーマー。現在の序列一位(実際の国力で言えば、昔からぶっちぎりでトップだったが、様々な理由(流石に長くなりすぎるので省く)から、これまでは序列外という扱いだった)。
北大陸と南大陸に挟まれた、サラマン海に位置する、
横に長い、ハッピ○ターンとほぼ同じ形状をしている巨大な島国。
フーマー島は、『太古の結界』で覆われており、
もし、フーマーの領海が犯された場合、
即座に、『対象』を撃退せんと、
超最高位召喚獣エンシェント・リヴァイアサン(存在値87)が召喚される。
仮に、『対象』が、エンシェント・リヴァイアサンを撃退できるほどの強者だったとしても問題はない。
なぜなら、『対象の撃滅』が確認されるまで、一分に一体のペースで召喚され続けるからだ。
エンシェント・リヴァイアサンは、HPが異常に高い。
同ランク・もしくはそれ以上の力を持っていたとしても、倒すには時間がかかり、一体を相手にしている間に、二体目、三体目が召喚されてしまうため、突破は不可能。
精霊国フーマーは、精霊国側からの正式な許可がない限り、決して近づけない完全なる平和を体現している、特異な国。
平和と言えば聞こえはいいが、その実は、差別主義とエリート思考だけが濃厚に蔓延する、息苦しさがハンパない閉じられた世界。
『高い能力を持つ者』であれば、それなりに快適な国だが、
能力が低い者は、酷く肩身が狭い想いを強いられる。
世界最大にして最高峰の『フーマー大学校』を有する事でも有名であり、
大学園への入学試験は、冒険者試験よりは難易度が低いものの(冒険者試験を突破するためには、強大な『力』が必須であるため)、
超最難関であり、突破できれば、『勝ち組が確定する』と言われている。
そして、最後の一つが、セファイル王国。
何の価値もなく、誰にも興味を持たれなかったが故に生き延びたという、
もはや恥でしかない稀有な歴史を持つ小国。
現在の序列6位。
――『個』としては史上最強の超人『勇者』を産んだ国。
――そのセファイル王国、王都、ラググ。
他国の王城と比べれば、明らかに見劣りするセファイル城の敷地内にあるのが、
神に愛された大御殿『ザラナイル宮殿』
大戦国時代に、当時の国王が、
他国に対する牽制・ハッタリで『神に愛された大御殿』と、
軽い気持ちで吹いただけなのだが、
『何もない小国なのに千年国となり』、
『事実、最強の勇者が産声を上げた場所』なので、
精霊国以外の一部国家上層部では、
【本当に神に愛されているのでは?】と思われだしている。
奇運にまみれているセファイルには、ある意味ふさわしい宮殿。
そんなザラナイル宮殿の最奥で行われている『宮廷会議』に参加しているのは、
セファイルの王族(王、第一王女、第二王子)と、
この国に領土を持つ冒険者8名(侯爵5名、伯爵三名)。
ちなみに、王族も、全員冒険者である。
もっと言えば、冒険者試験を突破するまでは、王族として扱われない。
この世界には『気高き王の血』が『実在』し、王族の血を受け継いだ者は、
例外なく『飛びぬけて才能豊か』な逸材として生まれ、
時には、『勇者』のような突然変異も生まれる。
とはいえ、『勇者』ほどの突然変異は歴史的に見ても稀――というか、初めてなのだが。
「……クソバカの反応が消えたわ。……リンクも完全に切れた。……あの愚弟は……間違いなく、今、死んだ……」
第一王女サーナ(二十五歳)の発言に、宮廷は揺れた。
――神呪による魔人化で、魂魄の外殻が変質した結果、
家族特有のリンクが切れてしまい、
勇者の固有オーラを感知できなくなってしまった、というだけの話で、
勇者は普通に今も生きているのだが、
そんな事、『常識の範囲内』で生きている彼女に想像できるはずもない。
「「「「「「なんだとっっ?!」」」」」」
第一王女の言葉で、宮殿が揺れた。
事実、揺れた。
どいつもこいつも、肺活量がハンパじゃない。
「まさか、魔王に殺されたのか? あのバカが? そ、そんな、まさか……」
勇者は、まぎれもなく、レッキとした第一王子なのだが、
ここにいる全員、勇者のことを、めったに名前では呼ばない。
父である王に、『それを不快に思っていないのか』と問えば、
『私の前では、なるべく、あのクソバカの話をするな』と怒鳴られる。
「ありえないだろう。魔王リーンなど、所詮は、剣しか取り得のない高位魔人。『人格以外は完璧』なあのバカに勝てる訳がない」
「ああ、あのバカの力は、間違いなく世界最強。世界大戦の時――まだ十二歳だったというのに、やつの実力は、すでに魔王と肉薄していた。というのに、その後も、アホみたいに訓練を続け、いまや、魔王軍全てを敵に回しても、一人で楽に勝ててしまうほどの力を得た変態。アレに勝てるモノなどいる訳がない。そんなもの、いてはいけないのだ」
――そこで、第一王女が言う。
「ウチのクソバカが世界最強なのは事実。けれど、反応が消えたのも事実。わたしの心臓は、望む・望まないに関わらず、あのゲロクズを感知してしまう。……あのカスは……間違いなく死んだわ」
「……偶然でもアレを殺せる可能性があるとすれば……やはり、ラムドだろうな……」
「しかあるまい。世界大戦の時から、ラムドの異質ぶりは飛びぬけていたが……」
「どうやら、この五年で成長したのは、ウチのクソバカだけではなかったようね」
「正直、あのお花畑魔王はどうでもいい。魔人など、人間と変わらん。だが、ラムドは別だ。やつはリッチ。いつ、『邪悪なる波動』に目覚めるか……」
『邪悪なる波動』を簡単に説明すれば、『差別』。
種族が違う。恐い。いつか、暴れ出すんじゃないのか?
その疑心暗鬼を、悪意たっぷりで言語化したのが、『邪悪なる波動』。
「相討ちならば、何も問題はないのだが……生きているとすれば……」
「ラムドが、あのバカを超える強さを持つという事に……」
「いやいや、そう短絡的な解答にはならないだろう。ラムドは、魔物だけではなく、『異界の魔道具』をも召喚できる。その中に、破格の性能を持つモノがいくつかあるのは、みな、世界大戦の際に目の当たりにして理解できているだろう」
「超希少で凶悪な魔道具を惜しみなく投入して、どうにかバカを殺しきった……ならば、確かに、当面は大問題というレベルではないかもしれない。しかし」
「それだけの『戦力』を召喚できるという能力は……充分に大問題だ」
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