第6話 はじめてのさつえいかい

 翌日の撮影会は桜のオタサーの姫の独壇場だった。


「そこの君ぃ、喉乾いたからビタミンレモン買ってきてぇ」

「了解しました!」

 ガリガリが走る。

「そこの君ぃ、ちょっと熱くなーい?」

「センスであおがせていただきます」

 デブが脂ぎった汗を飛ばしながらセンスを振る。

「汗」

「は、はい!」

 キャラTシャツが桜の汗を拭く。汗と言うだけで額にタオルが当てられるとか……お前らは医療ドラマの外科医とその助手かと思わず突っ込みを入れそうになってしまった。

 まぁ、それにしても今日の桜はいつも以上に好き勝手に振る舞っていた。きっと依与吏に彼女ができたことが、自分が捨てられたことがストレスになっているのだろう。従者たちはいいストレスの捌け口と言うわけだ。本当にあちうらは従者というより愚者だな。

「…………」

 そんな光景を横目に部長を始め何人かは黙々と三脚にカメラをセットし次の電車を待っていた。

「ねぇ、武蔵君~」

 なんですか桜姫? 思わずそう言いそうになったのを引っ込めて、普通に反応する。

「なに?」

「今日撮る電車のこと、教えてぇ」


 部長をはじめとした真面目に活動している部員たちがピクリと肩を震わせる。俺も内心あきれていた。撮影する電車のこと知らないなんて言語道断だった

それでも“僕”は部長達が何かを言う前に懇切丁寧に今日撮影する電車のことを簡潔丁寧に教えてやる。それを従者共が「それは俺たちの役目だ……!」と恨めしそうに見る。その視線を流して、俺も格好だけ電車を待ちかまえる。リア充になると決めたときカメラの類は売り払ってしまったのでスマホのカメラだが、設定をいじってきちんと編集すればそれなりの写真は撮れる。スマホのカメラは馬鹿に出来ない。

 電車がやってくる。鉄研の部員たちが一部を除いて静かな緊張感に身を包む。


 シャッターを切る。


 ただそれだけの行為に全てを注ぐ。俺も同じことをやるのにそれはただの行為だ。

(やっぱりわかばはすごいんだな……)

 あんな迷惑撮り鉄でも写真の腕前はとにかく凄い。シャッター音で魔法をかけて、世界を彩り、一瞬にして奪う。あんなことができるのはわかばが本物だからだろう。


 撮影会は桜が好き勝手振る舞い、部長たちが真面目にやって夕方には終わった。

「それじゃ今日はここまで。各自解散で」

 部長の一言でぞろぞろと部員たちが駅に向かって歩き出す。

「頼んだよ。横瀬君」

 部長のその一言が、決心がついていた俺の体を動かす。

『急で悪いんだけど、明日会える?』


 依与吏からの返信はすぐにきた。

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