第3話 鉄研presents 桜と出来れば話したくない横瀬part2

 深夜。家の近くの公園。

 オタクファッションに身を包んだわかばがジロりと俺のことを睨む。

「……で、有益な情報はなしと」

「初日だし仲良くなる方向だったんだよ」

「仲良くなくても情報を引き出せるように工夫しなさい」

「無理言うなって」

「やりなさい」

 わかばは手にしていた練乳コーヒーをずずっと音を立てて飲む。甘ったるいオタクの飲み物は昼間のわかばには絶対に似合わない。夜に纏うオタクスタイルにしか。

「なに?」

 不快そうにわかばが俺を見る。

「ちょっと鉄研のこと思い出してた」

「?」

「練乳コーヒーみたいな女子がいたんだよ」

「それってオタサーの姫のこと?」

「そう」


 自分で言ってどこか納得するものがあった。桜は練乳コーヒーに似ている。バカみたいに甘いのにどうやってもベースは黒々としたコーヒー。甘さと黒さ。オタサーの姫で、メンヘラ臭くて――それでいて腹黒さを感じさせる。そういうところが似ている。

「へぇ……」

 街灯の明かりが届かない缶の中身を覗きこむ。わかばには何が見えているんだろう。

「とりあえず有益な情報は伝える。それでいいだろ?」

「そうね」

「じゃ、俺は帰るぞ」

 桜の相手をして疲れたのか眠くて仕方なかった。早くベッドにダイブしたい。

「そういえば、面白い写真があるの」

 見る? と疑問形でスマホを俺の目の前に指しだす。

「……へぇ」

 その写真をみた瞬間、くだらない妄想が脳内で始まり適当なパーツが現実味を帯びた。



 鉄研に加入してからは電車に関する有益な情報を聞くよりも、桜の話し相手になることが多かった。

 なんちゃってリア充といえどもリア充はリア充。キラキラしている(らしい)俺に桜は興味津々で――女の欲望をぎらつかせた目で奥の方を見つめてきた。

「ねぇ、武蔵君は兄弟とかいないの?」

「妹がいるよ。中学二年生の」

「そうなんだぁ~いつか会ってみたいな~」

「今は留学中だから今度ね」

「えー、中学生なのに留学してるんだぁ~すごーい」

「そうだね。妹は海外好きだから」

「どこに留学してるのぉ?」

「ドイツ。フランクフルトってわかる? ベルリンとかミュンヘンとかに並ぶ大きな都市になんだけど――」

「う~ん……名前だけなら聞いたことあるかも」

「日本だと知名度そこまで高くないかもしれないね」

「今度言ってみたいなぁドイツ。ドイツの電車撮りたいんだよねぇ……できればフランクフルト駅にもいってみたいなぁ~」

「ドイツに興味あるの?」

「うん。日本のよりも好きぃ~」

 そういって桜はツイッターのアイコンを見せてきた。そこには少々マニアックなドイツの機関車の写真があった。

「なんか色合いがいいよねぇ~」

「そうだね」

 あいにく“僕”はドイツの鉄道には興味がなかった。なので軽く受け流す感じになってしまう。この辺りをただ相槌するだけではなく、言い返しができればリア充スキルも上がるんだけどなかなかうまくいかない。

「あっ、そういえば武蔵君はツイッターやってるの?」

「あぁ、やってるよ」

 ライン、リア垢のツイッター、インスタグラム。Tiktok。この四つはリア充高校生なら必ずやっておかなければならないSNSだ。

「相互フォローしようよ~」

「あぁ、いいよ」

 ポケットからスマホを取り出しツイッターを呼びだす。過去に炎上事件を起こした鉄オタ垢ではなく、フォロー・フォロワー数三百程度の一般的な高校生のアカウントを呼びだす。QRコードでさっと相互フォローにして終わり。

「こっちでもよろしくね」

「うん、よろしくぅ」


 こうやって一言添えると丁寧だし、女の子に対する好感度がよくなる。そんなことを言っていたのはリア充グループの男子の誰か。まぁ、それは本来合コン後にするものなんだけど。

 

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