第180話 混沌
翌日。
ボグとペルは仕事の関係でシャクシャインに戻る必要があるとかで、ダンジョン攻略には参加することが出来ず、俺とポチ達だけの探索を行うことになり、それでもまぁなんとかなるだろうと江戸城に向かい……突然の出来事で騒がしくなっている江戸城内を抜けていって、元三の丸の辺りにある地下倉庫へと足を向けた。
その倉庫はかつては様々な物資がしまわれていた場所らしいが、氷櫃を始めとした様々な保管道具が開発されると、使われることは少なくなり、流通などの兼ね合いもあって物資は港側のレンガ作りの倉庫にしまわれるようになり……第七ダンジョンの入り口が出来てしまったこともあって、少し前までは人が全く立ち入ることのねぇ場所へと化していた。
それがダンジョンの解禁で状況が変わり、結構な数の人が行き来するようになった訳だが……今日は人の気配が全くしねぇ。
まぁ、昨日ダンジョンで変な事件があったばかりとなれば怖気づくのも仕方ねぇ、昨日の今日で攻略に来ている俺達の方がおかしい訳で……そんな地下倉庫へと入り込んだ俺達は、躊躇することなく割れ目に触れて、ダンジョンの中へと入る。
本来であればもう少し、今回起きたことに関しての情報収集でもしたほうが良いのだろうが、どうやら江戸城はそれどころじゃねぇようだし、第七ダンジョンの情報自体はすでに仕入れてある。
であれば現地に向かって自分達で情報を集めれば良い、その方が吉宗様達にとっても助けとなるはずだ……と、そう考えてダンジョンに挑んだ訳だが、ダンジョンに入った俺達の目に飛び込んできたのはまさかのまさか、なんとも懐かしい第一ダンジョンの森の光景だった。
「あ……? 第七ダンジョンは確か岩山……恐山のような光景だって話じゃねぇか?
一体全体こりゃぁどういうこった……?」
そんな光景を見て俺がそう声を上げると、鼻をすんすんと鳴らしていたポチが言葉を返してくる。
「匂いも……第一ダンジョンですね、構造も見た限りは第一ダンジョン……。
まさか、とは思うのですが……いえ、今仮説をどうこう語るよりも、もう少し前に進んでみて、情報を集めましょう」
その言葉に俺もシャロンもクロコマも頷いて……そうしてダンジョンの奥へと足を進めていく。
獲物を構えながら慎重に……第一ダンジョンお馴染みの小鬼が現れたら適当に蹴散らして。
そうして最初の小部屋が見えてくるという辺りまで進むと、突然周囲を囲んでいた森の景色が様変わりする。
「ん!?」
それを見て思わず俺はそんな声を上げる。
森が突然さざなみの音が響く、海近くの砂浜の光景になった。
天井も床も壁も匂いさえも森の中であったはずなのに、突然青空が広がり、壁が無くなり、潮の香りが漂ってくる。
「おいおい、狼月、一体どうしたんだ?
第一ダンジョンのこんな序盤から足を止めることなんてないはずだ……うおぉ!?」
続いて俺の後方を歩いていたクロコマが俺の足元へとやってくるなりそんな声を上げる。
それを受けて首を傾げていたポチとシャロンもまた俺の足元へとやってきて、やってくるなり驚愕の表情をし……俺はそんなポチ達の様子を見て思う所があり、試しに一歩後ずさって見ると、途端に周囲の光景は森のそれへと戻ってしまう。
「こ、この辺りを踏み越えると海で、戻ると森で……。
まるで幻術か何かをかけられたような気分になるが、こりゃぁどうやら幻術とかじゃぁないようだな……」
俺のそんな言葉を受けてポチ達も同様に後ずさってみたり、前に進んでみたりを試し……目に見えない境界が引き起こす不可思議現象に目をぱちくりとさせる。
「海……海辺……。
おい、ポチ、無くなった第五ダンジョンって、どんな風景のダンジョンだったんだ?」
そんなことをしているポチに俺がそう声をかけると、ポチはもう答えを得ているのだろう、納得したような顔で言葉を返してくる。
「海辺……ですね。
最初の光景が第一ダンジョン、次が第五ダンジョン……恐らくはこのダンジョンのどこかに第七ダンジョンの岩山の光景があるのでしょう。
僕達は無くなったダンジョンはそのまま、あとかたもなく消滅したものと思っていたんですが……まさか他のダンジョンと混ざり合っているというか、溶け込んでいるというか……融合してしまっているとは思いもよりませんでした」
「ってこたぁ、恐らくだがこのダンジョン……恐ろしく複雑な作りになってるんじゃねぇか?
第一ダンジョンですらそれなりに面倒な作りになってたってのに、それが他の二つと混ざり合って?
いや……二つとは限らねぇのか、更に第六までが混ざり合って混沌の坩堝みてぇになってるかもしれねぇのか。
こりゃぁ攻略しようってもそう簡単にはいかねぇぞ? 魔物や大物までが混ざり合ってるか、同時に出現ってなこともあるかもしれねぇんだからよ」
「ああ……ダンジョンが混ざり合っているのですから、当然魔物もそうなる可能性がある訳ですか。
そうなるともうドロップアイテムもどうなるか分かりませんし……こんな風に混ざり合っていれば当然、突然ダンジョンが崩壊してしまってもおかしくない訳ですし……より一層の警戒が必要そうですねぇ」
「まぁ……そうなるな。
そうなると崩壊した際に、他の連中にようにしっかり吐き出されるかも分からねぇだろう。
此処から先はそれでも良い、それ相応の覚悟ができてるってもんだけで挑んだ方が良さそうだな。
ポチ、シャロン、クロコマ……お前らはどうだ?」
ポチとそんな会話をしてからシャロンやクロコマへと視線をやり、そう問いかけると……シャロンは投げ紐を持ち上げてぐっと力を込めて見せての笑みを見せてきて、クロコマは得心顔で符の束をぽんぽんと叩いて見せる。
そしてポチはわざわざそんなことを問うてくれるなと、勇気いっぱいといった感じに耳と尻尾をぴんと立てていて……ならばもう語ることもねぇかと俺は黒刀を握り直す。
そうしてから俺達は海辺の光景が広がる、なんとも今の季節に不釣り合いな空間へと足を進めていって……混沌の坩堝と化したダンジョンの奥へと足を進めていくのだった。
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