第176話 コボルト斬
陽炎が発動し、黒刀が相手の胴体を斬り裂き……それで決着かと思ったのだが、親玉蕾はしぶとく蠢き、大量の蔓を動かしてくる。
それぞればらばらに動かしたでは各個切り払われるだけだとでも思ったのか、蔓をねじりながら連ねて、じわじわと一本にまとめていって……凶悪なまでに太く大きく尖らせて、それでもってとんでもねぇ威圧感を放ってくる。
それをこれまでのような勢いで放たれたなら回避はまだしも防ぐのは難しく……誰かが食らってしまえば致命傷となってしまうことは確かで、俺は慌てて二撃目を放とうとする……が、黒刀はすでに陽炎を失ってしまっていて、なんて使いにくい技なんだと思わず歯噛みする。
「構わないから振り上げろ、狼月! 後はワシらに任せておけ!」
その折クロコマからそう声が上がり、その意味を深く考えずに俺が黒刀を振り上げると……直後、背後から凄まじい圧力が迫ってきて、何かが黒刀にがつんっと当たり、凄まじい衝撃が刀を握る手に伝わってくる。
「遠距離版弾力の符術! しかと黒刀で受け止めよ!!」
その衝撃の正体というか、原因はどうやらクロコマの符術で、その直後シャロンと思われる小柄な何かが俺の背中を駆け上り……俺の頭を蹴って宙に跳んで、黒刀に触れて「えいっ!」なんて声を上げる。
「ならば僕も!」
続いたのはポチだった、そんな声を上げながらシャロンと入れ替わりになる形で俺の背中を駆け上り、両足の爪をざくりと俺の肩に突き刺してから、小刀でもって黒刀を打ち据える。
魔力を込めて何度も何度も、飛ぶ斬撃を放ちながら何度も何度も。
すると黒刀から陽炎が立ち上がり……まさかこんな方法でもいけるたぁなぁと驚きながら俺が黒刀を振り下ろそうとすると、それよりも早く蔓が束ね終わったらしく、蔓が動き出そうとするが、そこにボグが飛び込んできて、その大きな両腕で蔓の束をがっしりと捕まえ、抱え込む。
だがそれでも蔓は動きを止めず、ボグが抱え込んでいようが構うものかと攻撃の構えを見せて……見せた所でペルがボグに魔力を送り込み、魔力を得て力を増したボグが「うがががが!」なんて声を上げながら蔓を抑え込む。
その隙は大きく、立ち位置を変えて刀を構え直して、しっかりと親玉蕾に狙いをつけることまでが可能で……改めて親玉蕾に狙いをつけた俺は、陽炎まとう黒刀を振り下ろそうとする。
だが、その時、まさかのまさか背後から二度目の衝撃が飛んでくる。
それはクロコマの符術だった、黒刀が更に叩かれ、振り下ろそうとしていたのもあって、凄まじい勢いで親玉蕾の方へと押し出される。
最早それは斬撃と言うよりもただ刀を下ろしただけという、情けねぇものだったが、その途中でシャロンが俺の腕に飛びついてきて、俺の腕に魔力を送り込み、俺の力を増させて……俺の両肩を蹴ったポチが、情けなく振り下ろされる黒刀へと飛びかかり、小刀を何度も何度もしつこいくらいに振るう。
そうしてコボルト達に無理矢理動かされる形になった黒刀は、親玉蕾の脳天へと直撃し……そのまま親玉蕾を一刀両断、真っ二つにしてしまう。
「見たか親玉蕾! 僕達渾身の連携技を!
……名付けてコボルト斬! 僕達の勝利ですね!!!」
まさかの決め台詞、人の刀を好き勝手に殴りやがったポチがそう言って……俺の頭を蹴り跳んだシャロンがきゃぁきゃぁと声をあげ……背後ではクロコマが「ふはっはっは!」と、なんとも偉そうな笑い声を上げている。
「……操り人形じゃねぇんだからよう、もうちょっとやり方ってもんがあっただろうが」
俺がそんな声を上げる中、真っ二つになった親玉蕾は、すぅっと溶けるようにして消えていって……直後、ボグが抱えていた蔓が破裂したかのように霧散し、星屑のような煌めきが辺り一帯を包み込む。
そうして俺達はまたもあの不思議な感覚に囚われる。
どこかが見えるような、見えねぇような……あちらの世界を覗き込んでいるかのような、そんな感覚。
だが今回は何も見えてこねぇ、何も聞こえねぇ……怯えたポチ達が俺の足にすり寄って震えているもんだから、ポチ達がそこにいるとは分かるのだが、そんなポチ達のことを目で見ることが出来ねぇ。
今度は一体全体何が起こったんだと、そんなことを考えていると……以前にもあったような聞き覚えのねぇうめき声のようなものがうっすらと聞こえてくる。
だが今回は今ひとつ聞き取れねぇ、何しろ声が小さい、弱々しい。
そんな声をどうにか聞き取ろうとしていると……段々と声が近付いてくるような感覚がある、近付いてくるにつれはっきりと声が聞こえるような感覚がある。
そうやって声がはっきりと聞こえてくると、険悪というかなんというか、声の調子はあまり良いもんではねぇようで……俺は何も見えねぇまま手で握っていた黒刀を構え直す。
黒刀を見ることは相変わらずできねぇし、手の感覚もねぇもんだから本当に握っているのかははっきりとしねぇが、それでも構えて力を込めてとしていると……真っ白な世界に明かりが灯る。
世界が真っ白ではなくなる、はっきりと見えるようになる、その光はまさにお天道様の光というような感じで、柔らかく暖かく周囲を包むかのように照らしていて……その光を嫌ってか、声の主が遠ざかる。
「こいつぁ一体……」
柔らかな光が照らしたそこは、何と言ったら良いのか……なんとも悪趣味な空間だった。
黒塗りでゴツゴツとしていて、何もかもが馬鹿でかくて……しゃれこうべやら何やらの模造品を飾ってもいて。
「どんな神経してたらこんな部屋にしてやろうなんて思うんだよ……」
その光景を見やりながら俺がそんなことを言うと……お天道様の光が強くなって、より暖かくなって……ふと気付けば俺達は、大量のドロップアイテムを前に、ダンジョンの中でぽかんと立ち尽くしていた。
「戻った、か……?」
そんなことを言った俺はひとまず黒刀を鞘にしまい……腕を動かし肩を回し、自分の体に問題ねぇことを確かめていく。
俺がそうする中ポチ達も足元でわちゃわちゃと動き始め……ボグとペルも呆然としながらも、自らの様子を確かめていく。
そうしてとりあえず自分達の状態を確かめ終えた俺達は……目の前に積み上がる、大量ではあるものの、今までに何度も拾ってすっかりと見慣れた草の束やら麻袋やらを改めて見やり……今回のドロップアイテムは外れだったかな? と、そんなことを思うのだった。
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