第174話 親玉蕾との激闘


 親玉蕾へと襲いかかり、黒刀を振るうと無数の蔓が迎撃体制を取ってきて、まるで鍔迫り合いでもしているかのように、火花が散り、弾ける。


「蔓如きと火花散らすはめになるとはなぁ!」


 そんな声を上げる俺に続く形でボグも爪を振るって、そちらでも火花が散り……それでも俺達は怯むことなく、幕無しに攻撃を繰り返す。


 黒刀を力任せに振るって振るって、隣では爪が何度も何度も振るわれて、今のところはこちらが優勢……というか、蔓のことを押し込めているようだ。


 俺達の目的はあくまで囮、親玉蕾に刃を届かせることじゃぁねぇ。

 これから攻撃を仕掛けることになるポチ達に攻撃がいかねぇようにすることで……蔓が暴れねぇよう、自由に動き回れねぇことにすることが最重要だ。


「しっかし、さすがは親玉、蔓もただもんじゃぁねぇなぁ!!」


 更にそんな声を上げた俺は、黒刀を思いっきりに叩きつけるが、蔓はそれを火花を散らしながらしっかりと受け止めて……何度叩きつけても結果は変わらねぇ。


 今までの蕾の蔓は斬ること自体は容易で、斬った先から再生しやがるのが厄介だったんだが、こいつの蔓は全くと言って良い程に斬れる気配がなく……鋼とまでは言わねぇが、質の悪い鉄板を相手しているかのような気分になっちまう。


 そんな蔓相手に何度も何度も攻撃を仕掛けていると、俺達が蔓を上手く抑え込んでいると判断したのか、ポチとシャロン、それとペルが左右から静かに、だが素早く駆けてきて……流し針を構えて、小さな親玉蕾へと襲いかかる。


 その動きに無駄はなく、それでいて気配は最大限に殺していて、俺達から見ても全く見事だと驚くような攻撃だったのだが、それに親玉蕾はあっさりと気付いてそちらへと蔓を向けるために蠢き始める。


「させねぇよ!!」


「がぁぁぁぁぁ!!」


 それを見て俺とボグは同時に声を上げる。

 声を上げて蠢いていた蔓を咎めるかのように叩いて……激しい金属音が響き渡り、これまで以上の火花が周囲に飛び散り……そんな火花に照らされながら、ポチ達の流し針が、親玉蕾へと突き立てられる。


「そんな予感はしてたけどよぉ!!」


 結果は、ポチの流し針だけがたまたまなのか上手く刺さり、シャロンの流し針は弾かれ、ペルの流し針はぽっきりと折れるというものだった。


 蔓がこれだけ硬けりゃぁ当然親玉蕾本体だって硬ぇ訳で、弾かれて当然、折れて当たり前、むしろよく刺せたなとポチを褒めたくなるってもんだ。


 魔力を上手く込めていたのか、身体能力の高さがそうさせたのか、そこら辺はよく分からねぇが、とにかくポチ達の攻撃はそんな結果に終わり、すぐさまポチ達は親玉蕾から距離を取るために駆け出して……そんなポチ達を追撃してやろうと、俺達の攻撃をすり抜けた何本かの蔓が書けるポチ達を追いかけていく。


「させん!!」


 そこで響き渡ったのはクロコマの声だった。


 直後俺達の背後でがきん、ざきんと、蔓を何かが弾くような音が響き渡り……どうやらクロコマが弾力の符術で蔓の追撃を防いだようだ。


 そんなクロコマの活躍のおかげでポチ達は無事に安全圏まで逃げることが出来……そして親玉蕾に刺さった流し針からはちょろちょろと樹液が……ほんのわずかだけ流れ出ていく。


「流れ出ねぇように小細工してるのか、それともそもそも樹液が少ねぇのか、どっちだろうなぁ!!」


 そんな光景を見やりながらそんな声を上げた俺は、流し針での討伐は難しそうだなと、そんなことを考えて……考えながら黒刀を何度も何度も振るっていく。


 攻撃は効かねぇ、それでいて恐らくだが再生能力も持っているだろう。


 そうなるとこんな攻撃しても仕方ねぇ訳だが……だからと言って何もしねぇってのも違うだろう。


 俺達の後方には知恵者達が揃っているんだし、俺達がこうしていりゃぁ何か考え出すはず、考え出せねぇなら出せねぇで撤退しろってな合図を出すはず。


 ドアの向こうに逃げちまえば何度でも仕切り直せるんだ、いざとなればドアの向こうから大砲でもってどんどかと弾を撃ち込むなんて採算度外視の荒業だって使える訳で……そこら辺のことは当然ポチ達も分かっているはず。


 であれば、今俺達がすべきはここで敵を引きつけることで、時間稼ぎをしながら、自分達なりに突破口を模索することで……そういう訳で俺もボグも、これまでと変わらず攻撃を繰り返す。


 相手から攻撃しようなんて思えねぇくらいに乱撃を放ち、それでも相手が攻撃をしてこようとしたのなら、上手く防具で受けるか、それか武器でもって打ち払うかして、出来るだけ早く体勢を立て直し、攻撃を再開し……。


 体が疲れ息が切れて、全身がぐっしょりと汗で濡れていくが、それでも攻撃をし続け……そうやってどれくらい攻撃をし続けたか、そろそろ色々なもんが限界で、退くべきか……なんてことを考え始めた時のことだった。


 無我の境地とでも言えば良いのか、体力が無くなりつつあった所で、魔力の器から魔力が溢れ出てくるような、そんな気配というか感覚が体の奥底で唸り声を上げる。


 吉宗様の魔法を受けた結果なのか、この状況がそうさせるのか、溢れた魔力が俺の体と黒刀を包み込んで……魔力を受けたからなのか、黒刀の刃が赤く鈍く光り……一本の蔓をざくんと斬り裂く。


 まさかのまさか、魔力を流し込むことで切れ味が増しやがるとは……!


 驚くやら困惑するやら、一瞬頭が真っ白になりかけるが、俺は構わずに黒刀を振り続ける。


 するとざくんざくんと、無数の蔓がどんどんと斬れていって……蔓が斬れる度に黒刀が軽くなり、切れ味が増していく……ような気がする。


 斬れば斬る程切れ味が増す……というよりも、蔓の切り口から魔力を吸い上げて切れ味が増しているといったような感じで……そんな状況の中で親玉蕾は、斬れた蔓を次から次へと再生させながら、ボグのことは完全に無視して俺だけに攻撃を集中させ始める。


 そうやって俺へと向かってきた蔓を、斬って斬って斬り刻んで……どんどんと切れ味が増していって、その度に黒刀が赤く、見たことのないような真っ赤になっていって……そうして限界が来たのか何なのか、ついに黒刀から魔力が溢れ出す。


 溢れ出した魔力は黒刀にまとわり付き、それがまた黒刀の切れ味を増させ、黒刀がどんどんと怪しげな様相へと変化していって……異界産の材料から作った刀とはいえ、まさかこんなことになりやがるとはなぁと、俺は心底から驚くことになる。


 そうして膨大な量の魔力をまとうことになった黒刀は、まるでそれ自身が燃え上がっているかのようなモヤというか、陽炎のようなものを纏い始め……そんな陽炎をまとった黒刀を振り下ろすと、黒刀に斬り裂かれた蔓の断面に陽炎が伝播し、まるで燃えているかのように陽炎を揺らし、黒煙が上がる。


 するとどうしたことか、蔓が再生しなくなり、俺が振るう黒刀の連撃を防げなくなり……親玉蕾本体に、真っ赤に染まった黒刀がざくりと確かな切り傷を付けるのだった。

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